吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

雪山の絆

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 「生きてこそ」という映画でも描かれた実話。前の映画のことをあまり覚えていないのだが、はるかに本作のほうがリアルで、人物の心理がじっくりと描かれているように思う。

 本作は、1972年に実際に起きた雪のアンデス山中への飛行機墜落事故と、その後奇跡の生還を遂げた若者たちの想像を絶する72日間をじっくりと描く。飛行機に乗っていたのはウルグアイ大学ラグビー選手たちとその家族など45名。墜落で生き残ったのは28名だが、最終的に生還できたのは16名だった。

 人肉を食べて生き延びることへの葛藤も、より観客にそのつらさが伝わる。役者たちがどんどんズタボロになっていくのを見るにつけて、恐ろしさも募る。途中で何人もが亡くなっていくのを見ていると、「あんなに苦しんで死んでいくぐらいなら、最初の墜落で即死するほうがよっぽどマシ」と思える。

 せっかく生き延びた人たちも、雪崩で命を落としてしまうという絶望。そして、どんどん生存者たちが衰えていき、唇はカサカサになり、頬がこけて眼ばかりギラギラし、髪の毛はぼうぼうで薄汚く、近づきたくないほど臭いに違いないその臭いさえ画面から漂ってきそうな迫力とリアリティ。もちろん何人かが亡くなり何人かが生還したことはわかっている。結末がわかっていても、ものすごい画力があるため、引き込まれていく。

 なぜあのような過酷な中で生存できたのだろう。乗客に若者が多かった、もともとラグビー選手たちなのだから体格も体力も人並み外れてよかったのだろう。また、当時にすれば少数派の大学生という恵まれた立場にいた若者だったから、医学生もいたし、電気工学の専門家もいて、それぞれの技術を駆使してサバイバルできたのだろう。

 若者たちの生への執着や仲間同士の絆や反目など、本作で描かれた、人が持つ根源的な力や欲望に惹き付けられずにはいられない。彼らが助け合わなければ誰一人生存できなかったであろう、そのことが何よりもこの映画の感動を誘う。

 アカデミー賞国際長編映画賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門ノミネートも納得。(Netflix

2023
LA SOCIEDAD DE LA NIEVE
スペイン  Color  145分
監督    :J・A・バヨナ
製作:
ベレン・アティエンサ,
サンドラ・エルミーダ
原作:パブロ・ビエルシ
脚本:J・A・バヨナほか
撮影:ペドロ・ルケ
音楽:マイケル・ジアッキノ
出演:エンソ・ボグリンシック、アグスティン・パルデッラ、マティアス・レカルト、エステバン・ビリャルディ、ディエゴ・ベヘッシ、フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシア、エステバン・ククリツカ