吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

刑事シンクレア シャーウッドの事件

「脚本家ジェームズ・グラハムが育ったノッティンガムシャーの集落で実際に起き、英国全土を震撼させた2つの悲劇的殺人事件に着想を得て作られた作品」(日本版公式サイトより)。

 これは大変示唆に富んだドラマだ。殺人事件を追う普通の刑事ものかと思わせて、実は犯人の謎を追っているのではなく、40年前のイギリス炭鉱スト以来の傷を描いている。組合が分裂し、対立し、いがみあう。憎しみはいつまでも続き、「スト破り SCAB」という蔑称が跋扈する。まるで三池争議のようだ。つらい過去と向き合う人々の物語であり、赦しの物語でもある。

 ラスト近く、町の人々が公民館のロビーのような集会場に集まって意見を述べ合うシーンが印象的だ。

第一組合のOB(当然にも今や爺さんである)が言う。

「仲間割れしたから俺たちは負けた。永遠にスト破りの州なんだ」

これに対して、夫ギャリー・ジャクソンを殺された妻ジュリーのセリフが忘れられない。

「それが政府の狙いなのよ。互いを憎みあい、今でも責めてる。当時も今も私たちを顧みず、ただ利用するだけ。私たちの故郷をみんな何て呼んでる? ”元炭鉱町”よ。なぜ? ”脱工業化” 過去にしがみついてどうやってその先へ進むの? 私の孫たちはどうやって未来を思い描くの? もう40年よ。人生は一度きり。それを痛感したわ。憎しみながら生きるなんてウンザリしない? 私はいやよ。もう疲れたわ」

 ラストシーンはまだ新しい墓場。そこは殺されたギャリーのもの。遺族は「アッシュフィールド炭鉱」と記されたバッジをキスとともにそこに置く。しみじみした。

 この問題は根が深い。このドラマは労働者の分断、憎悪、赦しという問題に切り込んだ極めて現代的な課題を取り扱ったと思う。しかし、「実際に起きた2つの殺人事件」というのがどういうことだったのか、史実を知りたい。誰か解説してほしいー。

 →ガーディアン紙が報道していた!

https://www.theguardian.com/politics/2022/jul/03/it-was-refreshing-to-see-what-sherwood-did-how-the-bbcs-acclaimed-miners-strike-drama-went-down-in-the-real-pit-villages

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原題:Sherwood
制作国:イギリス
脚本:ジェームズ・グラハム
監督:ルイス・アーノルド
出演: デヴィッド・モリッシー ジョアン・フロガット レスリー・マンヴィル ロバート・グレニスター クレア・ホルマン アラン・アームストロング アダム・ヒューギル アンドレア・ロウ フィリップ・ジャクソン