大林宜彦監督の遺作。本作の公開予定日だった4月10日に監督は亡くなってしまい、コロナ禍のせいで公開も延びた。ようやく公開されたのでいそいそと見に行ったのだが、実は事前情報をほとんど仕入れていなかったため、予想と全然違う作品なので驚いた。ファンタジー、破天荒、やりたい放題、監督の見た夢そのまま、といった作風には黒澤明の「夢」にも似た手触りを感じた。
あまりにも大林節が過ぎて、観客は100点付けるか0点かしかないだろう。わたしは巻頭まもなくからもう我慢できなくなって退席しようかと思ったくらいだが、爆睡していたのは途中までで、後半の太平洋戦争が始まるあたりからは突然目が覚めて、最後まで食い入るように画面を見ていた。
そのあまりにもストレートな反戦映画ぶりは、映画でできるさまざまな手法を駆使して舞い上がっていく。どんな反戦映画なのかと思いきや、戊辰戦争から始まるのだ。ひえー、ここからかい、と思っていると幕末の新選組に戻ったり西南戦争で西郷隆盛が自刃とか。でもこのあたりでわたしは寝てしまったからあとどうなったのかよくわからないが、目が覚めたら日中戦争が始まり太平洋戦争が始まっていて、中国戦線や沖縄戦での日本軍の残虐ぶりがこれでもかと戯画化されていく。
ナレーションとして引用されるのが中原中也の詩だ。そして中也と言えば、当然のようにランボーの詩も引用される。
感動したのは、桜隊が登場したとき。をを、広島で被爆して全滅した、あの桜隊が! と思うとなぜか懐かしい。だいぶ前に見た新藤兼人監督「さくら隊散る」を思い出すではないか。
映画の舞台は大林監督の故郷尾道だ。今日で閉館する古い小さな映画館で、オールナイト・フィルム上映の戦争映画を見ている三人の若者が映画の中に入ってしまうというお話。これはもうウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」とかジュゼッペ・トルナトーレの「ニューシネマパラダイス」とか、古き良き映画へのオマージュに満ち満ちているではないか。おまけに巻頭は時代がいつかよくわからない未来の宇宙。これは「2001年宇宙の旅」への劣化オマージュか?
というわけで、一人の映画監督の映画愛が詰まりまくった作品。劇場用パンフレットが売り切れていた。よっぽど人気なのか刷り数が少ないのか?
大林宜彦監督の戦争三部作を見ていなかったことに今更ながら気づいた。これから見ていくことにしよう。
2019
日本 Color 179分
監督:大林宣彦
音楽:山下康介