吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

嘘を愛する女

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 あまり期待せずに見始めたら途中で寝落ちすることもなく最後までついつい見てしまったおかげで寝不足になった。オリジナル脚本がずいぶん減ってしまった昨今の日本映画では珍しく、オリジナル作なのがいい。脚本はオリジナルだが、元ネタとなった事実があるというから驚いた。

 して、ストーリーは。同棲5年目のカップルの男のほうがある日突然くも膜下出血で倒れた、と警察から知らせが届く。そして発覚した、彼の名前も職業もすべて偽造であったという事実。衝撃の事態に動揺するヒロイン川原由加利は、探偵を雇って彼の素性を調べようとする。

 映画興行的には主役は長澤まさみ高橋一生ということになっているが、高橋はほとんど寝ているだけだから、実際には探偵・海原匠役の吉田鋼太郎とのやり取りが見どころとなっていて、この二人の演技をみる映画である。また、探偵の助手を演じたDAIGOのオタクっぽいキャラが印象に残る。

 内縁の夫であった男の過去を知る手がかりとなる、彼の書きかけの小説700頁分が見つかる。その内容はおそらく彼自身に起きたことなのだろう。書かれていることから彼の過去が眠っている場所は瀬戸内地方だと推理し、途中からは探偵海原と川原由加利とのロードムービーになる。

 物語の当初いけ好かないキャリアウーマンだった川原由加利が、自分の身勝手さに気づき、変わっていくというのが本作のキーポイントである。5年も一緒に暮らした相手の何を見ていたのか? 自問自答する川原由加利の姿は、男女の役割を変えただけのよくあるパターンだ。仕事人間で家庭のことは配偶者に任せきり、相手を自分にとって都合のいい家事使用人プラスアルファぐらいにしか見ていなかったという、現代人にありがちな設定。

 さしてサスペンスやミステリーに満ちた物語ではないけれど、苦悩するヒロインを演じた長澤まさみの演技が素晴らしいので、退屈しない。徐々に変わっていく彼女の表情に引き込まれていくのだ。ちょっとオーバーアクション気味だがとてもいい味を見せてくれる吉田鋼太郎の探偵もいい役どころだった。

 さて、夫探しの旅が結局は自分探しでもあった、その果てにあるのは希望か、哀しみか。ラストシーンから始まる物語もまた興味深い。(Amazonプライムビデオ)

2018
日本 Color 117分
監督:中江和仁
製作:市川南
脚本:中江和仁
撮影:池内義浩
音楽:富貴晴美
出演:長澤まさみ高橋一生、DAIGO、川栄李奈嶋田久作黒木瞳吉田鋼太郎