吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

 ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密

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 実は意外とコメディだったことに気づいたラストシーン。ここで一気に点数が上がりましたよ!

 まあ、そこまではどうなることやらと心配した凡庸に思える謎解き。我らが007、もとい、私立探偵も大した仕事をしていない。むしろ何もわからないふうに見える。わたしは脳内で「誰が真犯人か」と思いながらぐるぐると推理を巡らしていた。

 この私立探偵つまりは主役、が登場する場面がなかなかに秀逸だった。古いハリウッド映画は主役が登場する場面を思い切り効果的に印象的に作り上げる。しかし本作ではいつのまにか主役が登場しているのだ。そこまではうっすらと焦点をぼかしながら、遠くの影の中に「彼」はいる。ときどきピアノの鍵盤の高音を「ピン!」と一音叩きながら。なんだこれは? 何この映画は? と思っていると、いつの間にかカメラは主役にピントが合っている。これは斬新な登場のさせ方だ。

 その後、この主役の探偵は目立たず騒がず脇役っぽい。おまけにしゃべり方が変。いつもの007の時のような歯切れのいい英語ではなく、もごもごとしゃべっているし聞き取りづらい。劇場用パンフレットによると、ダニエル・クレイグは懸命の練習の末にこの南部訛りをマスターしたらしい。

 で、ストーリーは。大富豪である作家が85歳の誕生日を迎えたその夜に自殺した。しかし他殺を疑った匿名の捜査依頼によって私立探偵が動いた。さて自殺か他殺か。という謎解きだが、作家の死の真相はわりと早くに明かされてしまう。ここでキーパーソンは作家のお気に入りの看護師だった若くて超可愛いマルタ。彼女が嘘をつくことができない体質だというのがミソです。

 んで、特に派手なカーチェイスもなくアクションもなく、でも遺産を狙う怪しげな親族がいっぱいいて、真相は複雑な迷路の奥にあるようで、観客の興味をそそる。

 まあ、あれこれと謎解きを楽しみつつ、最後の伏線回収に大笑いして、という娯楽作。作家の豪邸の調度品が凝っていて、美術が見どころのひとつ。なによりもこの作家のコレクションであるナイフがすごい。不気味で美しく輝くナイフのコレクション棚が圧巻。よく考えたね、こんなセット。これはぜひ映画館で見たい。

 あと、細部がいろいろ面白いのでセリフを楽しみに。「ネトウヨ!」「パヨク!」と親戚同士で罵りあう場面も現実を反映していて興味深い。