吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

殿、利息でござる

 これが、新しいテレビで初めて見たブルーレイディスク。あまりにもくっきりと画面が鮮明なので、背景が書き割りのように見えてしまう。人物と合成しているように見えるのはなぜなのだろう。こうなると、昔のフィルム映像が懐かしい。あの、なんとなく曖昧で厚みのあった映像がもう見られないのか。こんなふうに、くっきり鮮明だけれど、どこか平板な映像にはうんざりだ。そんなわけで、映像的にはきわめて不満足なんだけれど、ストーリーと演出には惹かれた。
 本作は、江戸時代中期の仙台藩で実際に起きた出来事を元に作られた。原作が「武士の家計簿」の作者だというから、きちんと調べてあるのだろうな、と思うが、ドラマとしてもよくできている。コメディにジャンル分けされているけれど、なかなかどうして、内容は実に真面目で、当時の町人や百姓の苦労がよくわかる感動物語だ。
 重税にあえぐ宿場の人々の困窮ぶりを見かねた商売人たちが、大名に金を貸して利子で町を救うというアイデアを思いつく。そのための資金も半端なく、当時の金で千両(今の3億円)を用意せねばならない。金持ちの大店(おおだな)の主人たちが、ある者は功名心に逸(はや)って金を出し、ある者はしぶしぶ提供し、またある者は店を傾けさせてまで身銭を切ろうとする。そんな悲喜こもごものてんやわんやを明るく楽しく、またしみじみと描いた。 
 日本中の大金持ちに見せたい映画。金というのは世のため人のために使うもんだよ! しかし、一番大事なのはそれよりも、重税を課している藩主に異議申し立てすることだろう。その根本のところが歯がゆいのが最大の難点だが、商人たちの異議申し立ては、それこそブルジョア民主主義革命が成功しないと無理だったんだろうなぁ(と、講座派みたいなことを言う)。(レンタル・ブルーレイ・ディスク)

129分、日本、2016
監督:中村義洋、原作:磯田道史『穀田屋十三郎』(文藝春秋刊『無私の日本人』所収)、脚本:中村義洋、鈴木謙一、音楽:安川午朗
出演:阿部サダヲ瑛太妻夫木聡竹内結子寺脇康文、きたろう、西村雅彦、松田龍平羽生結弦草笛光子山崎努