同じタイトルのドイツ映画があったが、あちらは安楽死の話。こちらは小学校の学級会の最後に「先生、さようなら。みなさん、さようなら」と大きな声で児童が言う、あの言葉に由来する。
つい先日、坂本順治監督の「団地」を見たばかりなので、団地つながりで、本作を鑑賞。小学校を卒業間際の渡会悟(わたらい・さとる)は、突然「今日から団地の中だけで生きていく」と家族や周囲に宣言して、団地から一切外に出ないようになる。一度も出席しないまま中学を卒業し、卒業と同時に団地の中にあるケーキ屋に就職した。彼は「引きこもり」ではなく、家から毎日外に(といっても団地の中)出かけて、せっせとランニングや筋力トレーニングを欠かさず、規則正しい生活を送る。夜には団地中をパトロールして同級生の無事を確かめている。不良グループと喧嘩もするし、恋愛だってしっかりと。
このように、団地の中だけで生活できるというところがすごい。ここは半端なく大きな団地なのだ。なにしろ小学校の同級生107名のすべてがこの団地の住民なのだから。
前半はコミカルに展開し、中学生から二十歳ごろまでの悟の成長がそのまま青春物語然としていて、とりわけ若い男女の肉体関係が進みそうで進まないところはなんだか懐かしくも笑ってしまった。
ところが、上映時間の半分を過ぎたあたりで悟の団地引きこもりの原因が観客に明らかになるころから、画風が変わる。彼のトラウマは止揚されるのか。果たして団地を出ていくことができるのか。重苦しい雰囲気に変わっていく物語に息を飲む思いがする。と同時に、この物語が郊外の大規模団地の1980年代以降の20年ほどの消長をそのまま映していて切ない。大勢の子どもたちで賑わう団地から若者が一人もいなくなり、外国人が入居し、老人世帯だらけになり、店はシャッター街になる。古い棟は取り壊され、団地全体が荒れた雰囲気を醸し出す。
団地は社会問題の縮図だったのだ。引きこもり、虐め、児童虐待、老齢化、さまざまな問題を抱えたまま団地は疲弊していく。もはやここを再生させると考えるよりも、一刻も早く脱出すべきなのだろうか。
この物語の結末を見て、わたしには相反する思いが交錯する。とどまるべきか、出ていくべきか、青春の旅立ちが古い共同体を見捨てることになることへの疑問が、この映画では明確になっていないからだ。悟が団地を出てハッピーエンドなら、それは別の見方ができるのではないか。もちろん彼は団地を出ていくべきなのだ。しかししかし。
期待せずに見たものだから、意外に考えさせられるところが多かった佳作。(レンタルDVD)
120分、日本、2012
監督: 中村義洋、製作: 林裕之ほか、原作: 久保寺健彦、脚本: 林民夫、中村義洋、
撮影: 小林元、音楽: 安川午朗
出演: 濱田岳、倉科カナ、永山絢斗、波瑠、ナオミ・オルテガ、田中圭、ベンガル、
大塚寧々、安藤玉恵