人妻の不倫もの、という昼メロなんだけれど、これが何とも言えない緊迫感のある作品に仕上がっている。
まず冒頭、雪の夜道に浮かび上がる公衆電話ボックス。中から出てきた若い女は暗い表情でふらふらと歩き、自動車に乗り込む。運転するのはイケメン男性の妻夫木聡。彼らは何も話さず、車内に響く音楽を聴いている。公衆電話? アナログのカーラジオ? いったいこの映画の時代はいつよ。1980年ごろかな、と思っていたがなんと現在ということになっているようだ。
この巻頭がやけに暗くて静かでこの映画の先行きを暗示するかのようだ。そして物語は過去へと遡り、この二人の出会い(再会)が描かれていく。主人公塔子は裕福な家庭の専業主婦で、夫の両親と一緒に暮らしている。その台所での会話という短いシーンでこの家族の位置や、塔子が夫に抱いている不満が見事に活写される。あまりにも見事にわかりやすい場面ばかり続き、この塔子が夫以外の男に惹かれていく理由がありきたりで明解で面白くない。夫は妻の塔子を愛しているつもりでいるが、その愛は身勝手なものでしかない。夫婦の夜の営みも自分の快楽だけを求めて相手を喜ばせようという態度が見られない。おまけにマザコン。こういう日常生活を送っているときに、昔愛したことのあるいなせな男が現れたらそっちに行くでしょ、ふつう。
というわけで、かつて愛した鞍田と激しく求めあう塔子なのであった。塔子を演じた夏帆があまりにも童顔で幼いため、大人の女の色気がなくてこういう役には合っていないのではないか。もともと可愛らしいお嬢ちゃんタイプの主婦だったようだから、最初のうちは彼女でもいいのだけれど、最後はもっと妖艶になっていてほしいと思う。二階堂ふみが演ったらよかったかも?
妻夫木聡はとっても素敵だった。これまでみた映画の中で最高の演技を見せたと思う。この主演俳優たち、デキてるんじゃないのと疑わせるぐらい熱意の籠った演技で、とりわけ妻夫木が夏帆を見つめるその瞳がとろけそうだった。
ラストシーンはある意味衝撃的で、塔子がその選択肢を取ったことに慄然とした。ありきたりすぎる不倫ものなのに、撮影の凝り方や構成がたくみで、ついつい引き込まれる映画だった。柄本佑、主人公たちにからむ重要な役回り、いい味出してます。