武侠アクションというジャンル映画だが、全然アクション映画らしくない。「動く美術館」と呼ぶべき、静かで美しい映画だ。
唐の時代の辺境の地にあって権力争いを繰り広げる親戚同士の殺し合いというストーリーなのだが、その内容はほぼ理解不可能だ。幼いころに道士に預けられた主人公隠娘(インニャン)が13年ぶりに実家に戻ってくる。彼女は貴族の娘であるが、13年間に暗殺者に育て上げられた。そして道士から暗殺の指令を受けていたのだが、殺す相手はかつての婚約者であった。
何度も暗殺を失敗する隠娘(インニャン)は、情に流されてどうしても標的を殺すことができない。彼女を襲う刺客もまた女である。この映画では道士も女、主人公は女、彼女と対等に戦える相手も美しき女暗殺者。美しい女たちが匂い立つようなしっとりとした雰囲気を漂わせながら、画面全体にえも言われぬ緊張が走る。
ほとんどセリフがなく、あってもよくわからず、ただもうあまりにも画面が美しいのでわたしは呆けたように見とれていた。水墨画のような山々、白樺林の決闘、夜のとばりの美しい絹を蹴散らす剣劇、そそり立つ山肌、いずれもリアリティよりもひたすらにホウ・シャオシェンの美学を求めるその姿勢が貫かれて見事だ。
ストーリーはよく理解できなかったが、ヒロインが抱える哀しみは痛いほど伝わってくる。切ない思いがいつまでも尾を引く、静かに胸に響く作品だった。これこそ映画館で見るべき作品。せめて家で見るときは50インチ以上のモニターで。(レンタルDVD)