吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

浅田家! 

https://eiga.k-img.com/images/movie/90845/photo/912be86ae92e24a9/640.jpg?1598855682

 実話を元にしているということなので、興味深く見た。

 ひたすら家族の写真を撮り続ける写真家というのも面白い。これは究極の私小説ならぬ私写真集ではないか。赤の他人には何がおもしろいのかと思うのだが、しかしこれが面白いかもとても不思議だ。浅田政志の写真にはなにか普遍的な力が宿っているのだろう。

 かくいうわたしは初孫が生まれて以来、ひたすら孫の写真と動画を記録し続けている。赤の他人には何が面白いのかと思われるだろうが、とにかく飽きない。何度でも見ているし、そのたびに知らず知らずに顔が緩んでニコニコ笑っている自分を発見して可笑しく思う。

 この映画の主人公・浅田政志の場合はそれとは違って自分の家族に仮装させて写真を撮っている。つまりは演出がほどこされているわけ。で、そんなユーモラスな写真集で賞を獲った彼だが、東日本大震災の現地に行って自問自答する。ここで何を撮影するのか? 自分に何ができるのか? やがて彼は津波にさらわれた大量の写真を洗って乾燥させ、持ち主に戻すボランティア活動に参画する。

 この作業がどれほど骨が折れるか、わたしもたった1日だけだが津波に浸かった資料の修復作業を行った経験から、想像できる。作業自体は単調なのでひたすら根気が要る。信念がなければ続けられないことだ。

 面白おかしい家族写真を撮り続ける変わった写真家、そして大震災。いずれも写真の持つ力、つまりは「記録」の大切さを痛感させる映画だった。これは震災復興支援活動に携わる者も、記録保存に携わる者も必見の作品。見終わったあとに心に残るものを大切にしたい。

 いくつかの映画賞でノミネートや受賞を果たしている。中野量太監督、いいい仕事してます。(Amazonプライムビデオ)

2019
日本  Color  127分
監督:中野量太
製作:市川南
企画・プロデュース:小川真司
原案:浅田政志 『浅田家』『アルバムのチカラ』(赤々舎刊)
脚本:中野量太、菅野友恵
撮影:山崎裕
音楽:渡邊崇
出演:二宮和也妻夫木聡黒木華菅田将暉渡辺真起子北村有起哉風吹ジュン平田満