吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

三度目の殺人

 見終わったあとすっきり爽やか、といかないところが本作の魅力なのか欠点なのか。もやもやしたまま終わってしまった謎の作品。是枝監督自身が「神の目線を持たない法廷劇」と言っているように、殺人事件の真相は観客に委ねられる。
 三度目の殺人とは、三隅(役所広司)という男が30年前に犯した殺人事件で2人を殺し、出所後に就職した食品会社を解雇されたあとに社長を殺した、その殺人を指す。本作はこの三隅と、彼の弁護人である重盛弁護士(福山雅治)とのほとんど一騎打ちみたいな映画だ。映画の巻頭で三隅が河川敷で男を撲殺し、死体に油をかけている場面が映るから、観客は「ああ、三隅は殺人犯なのか」と納得して物語に入っていく。しかし、この三隅という男は不気味な人間で、弁護士である重盛と接見するたびに人格がころころ変わったような印象を受ける。証言も二転三転する。
 「真実なんてどうでもいいんだ、依頼人の利益になるようにすればいい」というクールな考えの重盛も、三隅の前にはついに「真実を教えてくれ」と叫び出すほどに心をかき乱される。重盛の惑乱がそのまま観客に伝わるかのように、物語が進むうちに真相がぼやけていく。思いもかけなかった要素が次々と現れ、法廷戦術も二転していく。。。
 法廷で争われているのは真実ではないのだ、ということをこれほど見事に表わした法廷劇も珍しい。検察と弁護側の取引、さらには裁判官の目くばせという阿吽の呼吸で裁判は進む。三隅と組む国選弁護人の摂津弁護士(吉田鋼太郎、実にいい味を出している)がいわゆるヤメ検、つまり検事から弁護士に転身した人間だけあって、検察・弁護側双方の動きや心情がよくわかっていて、老獪なあるいは姑息な法廷戦術の慣れあいを若い弁護士に説教する場面などは実にリアルだ。
 そして、徹底してリアルなドラマの中にシームレスに夢や幻想の場面を挿入するために、観客はだんだん騙され、揺さぶりをかけられていく。それはドラマの中の弁護士たちが揺さぶられていくのと同じ思いを観客も共有していくことになる。こうしてまんまと是枝監督の術中にはまるのである。
 非常に静かなタッチで、照明に凝った映像を見せてくれる撮影も優れている。なかなかよかったと思う一方で、やはり是枝監督の腕の見せ所はこういうサスペンスではないのでは、と思わせるものがあった。

125分、日本、2017
監督・脚本:是枝裕和、製作:小川晋一、原田知明、依田巽、撮影:瀧本幹也、音楽:ルドヴィコ・エイナウディ
出演:福山雅治広瀬すず満島真之介市川実日子、松岡依都美、橋爪功斉藤由貴吉田鋼太郎役所広司