吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

私は確信する

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 骨太の法廷劇で、未解決の実話を元にして作られている。よく見るフランス映画のようなおしゃれな台詞があるわけでもなく、恋愛の機微が描かれるわけでもない。あくまでも法的な解釈に則って緻密な事実調べが行われ、被告弁護士にボランティアで協力する女性シェフの身を切る犠牲的な作業の尊さ、さらにはその彼女の正義感の危うさもまたずっしりと心に残る。

 その事件とは、2000年に起きたスザンヌ・ヴィギエ失踪事件である。死体なき殺人事件と呼ばれ、不仲であった夫のジャックが2009年になって殺人犯として法廷で裁かれることとなる。一審無罪、しかしただちに検察側に控訴されて二審が始まる。映画はここから本格的にモレッティ弁護士の活躍を描く。

 なにしろ実在の事件であり、のちに法務大臣になった有名弁護士が主役で、つまりは実名で登場する人たちが多いという状況下、よくぞこの映画を作ったと感心する。一歩間違えれば本作の中で怪しいと言われた人物たちの名誉棄損にもなる。

 証拠の電話の音声テープを懸命に文字に書き起こしてゆく絶望的とも思えるほどの作業に没頭するノラは、自分の娘の家庭教師がスザンヌの娘であったという縁でスザンヌ一家に同情を寄せ、そこから彼女の献身が始まる。しかし、彼女の自己犠牲と正義感もまた暴走の恐れがあるのだ。モレッティ弁護士は正義に燃えるノラを叱ったりたしなめたりする。「推定無罪」という法律用語の大切さを語るその言葉に、観客の何人もが納得したりできなかったりするのではないか。映画の中であれほど「こいつが怪しい」と言わんばかりに描かれたスザンヌの愛人を真犯人として名指しすることはあくまで避ける。

 何かあれば真犯人探しに熱中し、ネット上で罵詈雑言を浴びせても平気なわが国の歪んだ正義感溢れるSNS住民たちと違って、この映画では先入観と偏見を持つことの危険性をしっかりと描いている。ここが何よりも感動する点だ。主人公ノラでさえ、加速度的に裁判にのめり込むあまりに偏見に凝り固まってゆく人物として描かれている。映画はそこを冷静に見つめるものとなった。

 しかし正直言ってすっきりしない。じゃあ誰が犯人なのか? そもそもスザンヌの遺体は見つかっていない。気の毒なスザンヌとその子どもたちは今頃どうしているのだろう。

 法学者でフランス刑法に詳しい島岡まなさんが劇場用パンフレットにフランス司法の解説を書いている。たとえ裁判で自分に不利になっても、正義のほうが大事だと「一般市民である年配の母親さえ知っている。フランス社会には、それだけ「法律的な正義観念」や「人権意識」が浸透しているのだ! 私利私欲のために法を曲げて文書を改ざんするどこかの国の政治家にも、ぜひこの映画を見てほしい」と結ばれている。

2018
UNE INTIME CONVICTION
フランス / ベルギー  Color  110分
監督:アントワーヌ・ランボー
製作:カロリーヌ・アドリアン
脚本:アントワーヌ・ランボー、イザベル・ラザール
撮影:ピエール・コッテロー
音楽:グレゴワール・オージェ
出演:マリナ・フォイス、オリヴィエ・グルメ、ローラン・リュカ、ジャン・ベンギーギ、フランソワ・フェネール、フィリップ・ドルモワ