吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

ナチスの犬

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劇場未公開作。
 これはおそらく実話を基にしているのだと思う、ナチスと対峙した市井の人の物語。ナチス占領下のオランダで、ドイツ系ユダヤ人の劇場支配人ズスキントは占領軍の将校に取り入ってご機嫌を取り結び、特別視してもらっていた。その見返りに彼はユダヤ人を選別し、ドイツ本国へ輸送するリストを作成する業務に就くこととなる。そのリストに載せられた者たちが絶滅収容所に送られると知ったズスキントは、なんとか幼い子どもたちだけでも助けようと策を練る。。。。
 仲間から裏切り者呼ばわりされても、家族を守るためにはやむなくナチスの手先となるズスキンドは、同時に、妻から罵られても、なんとかして移送されるユダヤ人のリストをごまかすために奔走する。それは危険な橋を渡る途だった。ナチスの手先となる一方でナチスを裏切る。引き裂かれたズスキントの苦しみがひしひしと伝わる。彼はユダヤ人だったが、ユダヤ人でなくても、当時のオランダにはユダヤ人を匿ってくれるひとが少なからずいたはずだ。そう、アンネ・フランクの一家を匿った人がいたように。

 ズスキントの作戦には子供たちを隠してくれる協力者が必須だった。あの手この手で乳幼児を運んで脱出させる手はずを整える人々の、懸命の知恵と勇気には目頭が熱くなる思いがする。実際、その立場に立ったとして、わたしは自分の身の危険を顧みずにそのようなことができるだろうか?
 この映画では、ズスキントに利用されるナチスの大尉が登場する。彼はクラシック音楽を愛し、孤独を紛らわせるために酒に酔う。わたしは思わずナチスの将校に同情してしまった。彼なりにズスキントを信頼していたのに、結局は利用されていただけという哀れな大尉、彼の気の弱さや事なかれ主義の役人根性はどこにでもいる普通の人間の心理のありようを如実に表している。
 本作はイタリア映画「戦火の奇跡 ~ユダヤを救った男~」を想起させる。「戦火の奇跡」ほどには波乱万丈でもドラマティックでもないが、この地味な「ナチスの犬」も必見作だ。戦争中の勇気と良心の人々の話はまだまだいくらでもあるんだろうと思わせるものがある。(U-NEXT)

SUSKIND
118分、オランダ、2012
監督・脚本:ルドルフ・ファン・デン・ベルグ 
脚本:クリス・W・ミッチェル  
撮影:グイド・ファン・ヘンネップ

出演:ユルン・スピッツエンベルハー 、 カール・マルコヴィクス 、 ニンケ・ベーカイゼン 、 カーチャ・ヘルベルス 、 ナスルディン・チャー 、 Nyncke