吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

嘆きのピエタ

 借金返済に窮した人々から取り立てるために、相手を「障害者」にして保険金を詐取しようとする若者の名はイ・ガンド。彼は親に捨てられた天涯孤独の身として育った男だ。残虐無比なイ・ガンドの手にかかって腕を亡くしたり足が不自由になった人々は何人もいる。しかも彼らのほとんどが旋盤を操る零細工場主である。韓国の裏さびれた零細工場街を見ていると、わが実家を思い出す。旋盤の機械1台、数台、で操業する零細企業はかつての大阪の町工場の風景そのものだ。仕事に窮した工場主が高利貸しから借金する。やがて彼らは高い利子に根を上げ、自分の身体と引き換えに借金を返すこととなる。

 そんなすさんだ仕事に明け暮れるイ・ガンドのもとにある日、彼の実母を名乗る美しい女性が現れる。「あなたを捨てたの、赦してちょうだい」と涙ながらに訴えるその女は献身的にイ・ガンドに尽くす。鬼のようなイ・ガンドの心がいつしか女のまえに開かれ、彼は30年の時を越えて母子の絆を取り戻すかに見えたが、、、


 物語は寓話である。だから、突然現れた母親もまるで夢の中の人物のようにはかなく現実味がない。いつしか心を赦しあう母と息子の姿もまた御伽噺のようだ。前半の目を背けたくなるような残虐な場面から一転して後半は母と息子が失った時間を取り戻す至福のときのように見える。しかし最後は復讐の刃が切っ先鋭く観客の前に立ちはだかる。
 復讐と赦しを描いた作品に「ピエタ」というタイトルをつけたキム・ギドク監督の意図を深読みする。彼の作品には宗教色が濃厚だ。ピエタは「死んで十字架から降ろされたキリストを抱く母マリア(聖母マリア)の彫刻や絵の事を指す」(ウィキペディアより)。

 
 心に残る悲しい作品がまた一つ生まれた。(レンタルDVD)

PIETA
104分、韓国、2012 
監督・脚本: キム・ギドク、撮影: チョ・ヨンジク、音楽: パク・イニョン
出演: チョ・ミンス、イ・ジョンジン、ウ・ギホン、カン・ウンジン、クォン・セイン