吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

エゴイスト

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 2月に見て少しメモしたまま下書きに入れて放置していたので、内容はほぼ忘れたけれど、今日読んでいた『戦後映画の生き残り戦略』という論文集の「食から薔薇族映画を再考する」に本作がちらっと言及されていたので、「あ、そうだ。この映画の感想を完成させるのを忘れていたよ」と思い出した次第。

 ドキュメンタリータッチを狙った冒頭の演出がなかなかよい。この後、しばしばこのドキュメンタリータッチが登場する。鈴木亮平目当てで見た映画だったが、相手役の宮沢氷魚がザ・好青年を演じて大変よろしい。肌が白くてきれいだねえこの人。

 成功したビジネスマンの鈴木亮平が、パーソナルトレーナーとして出会った貧しい若者の宮沢氷魚に惹かれる。やがて二人は愛し合うようになり、宮沢氷魚が母親の面倒を見ながら必死で生活費を稼いでいることを知り、鈴木亮平は何かと彼を援助しようとする。しかししかし。。。。というお話。

 「愛がなんなのかわかりません」と泣く主人公の愛がまさにエゴイズムだったのか……。相手に尽くしたはずが、実は自分の価値観や親切や思い入れを押し付けただけだったのかもしれない。異性愛だろうが同性愛だろうが、二人の間にさまざまな格差がある時、一方から他方への同情や共感や贈与の押しつけはエゴイズムに過ぎないのではないかという普遍的な問いが刻まれた作品だった。これは恋愛関係にとどまらない。人間関係のすべてに共通する事柄だろう。そしてまた、決して「押しつけ」とばかりも言えない状況へと展開していくあたりが、人間関係の絶妙な不安定さと面白さを観客にも実感させる。

 主要な登場人物3人の演技が際立っている佳作であり、誰も悪人が登場しないどころか善人ばかりなのに物事は良い方向に行くわけではないという、どこか皮肉と矛盾に満ちた「愛情物語」であった。(レンタルDVD)

2022
日本  Color  120分
監督:松永大司
企画・プロデューサー:明石直弓
プロデューサー:横山蘭平、紀嘉久
原作:高山真
脚本:松永大司狗飼恭子
撮影:池田直矢
音楽:世武裕子
出演:鈴木亮平宮沢氷魚中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ柄本明阿川佐和子