吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ゴジラ-1.0 

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 戦後間もない時代に設定した、ゴジラ映画。わたしはこれまで何本ものゴジラ映画を見てきたが、これほど泣いたのは初めてだ。そしてなぜ「マイナス1.0」なのか、元祖ゴジラは1954年のアメリカのビキニ水爆実験をきっかけに生まれたことになっているのに、その前から登場しているからマイナスなのだ、しかもそれは戦争を引きずっているという意味がこのタイトルに込められている。

 物語は敗戦間近な離島大戸島に主人公敷島浩一が操縦する特攻機が着陸するところから始まる。彼は機体の不調を理由にこの大戸島に着陸したのだが、実は特攻逃れが本心だったのだ。その時、突然伝説の怪獣「ゴジラ」が上陸してくる。なんとかゴジラを追い払った敷島たちだったが、何人もの犠牲者が出た。

 彼がその後復員して東京の実家に戻ったところ、かろうじて焼け残った彼の家の周囲はほとんどが焼け野原だった。そこに赤ん坊を抱いた若い女・大石典子が転がりこんでくる。典子と赤ん坊に同情した敷島はしぶしぶ彼女たちと同居を始めるのだった。やがて敷島は高給に惹かれて東京湾の機雷を撤去するという危険な仕事に就くことになる。そんな折に巨大化したゴジラ駿河湾目指していることが発覚し…。

 さすがはVFXの達人・山崎貴である。ゴジラの造形が素晴らしい。迫力満点、怖さも強さもマックス。こんなゴジラ、どうやって倒すんですか、無理でしょと思わせる絶望感にひたれる。

 ゴジラのテーマ曲はもちろんのこと、元祖作品へのオマージュが至るところに表出しており、わたしは改めてオリジナル作を想起しながら見ていた。

 この映画は明らかに反戦映画であり、アジア・太平洋戦争への糾弾反省も込められているのだが、どこに向かって糾弾しているのかがよくわからない。それに、反戦なのになぜか戦争中の態勢をそのまま引きずってゴジラと対決する。相手が鬼畜米英からゴジラに代わっただけのようにも思える。戦前戦中の国家による情報操作や、人民を使い捨てのコマとしか見ていなかった大日本帝国軍の非情な本質など、至るところに体制批判のセリフが散りばめられていて、それは今の日本国にも通じるものだ。しかし、結局「民間の力でゴジラを殲滅しよう」と気勢を上げるシーンには首をかしげる。これも新自由主義の影響か?

 本作はご都合主義のセリフや展開が多く、どうせ架空の話なのだからそこはあまり気にならなかったのだが、くさいセリフをしゃべらされる役者陣のなかで安藤サクラが最もうまかった。さすがだね。

 ラストはハッピーエンドとは言えず、それはこの国がずっと原罪のように抱き続ける核兵器放射性物質)との対峙や悲劇が繰り返されるという暗示だった。

 というわけで、わたしとしてはたいへん面白く見ることができたゴジラ映画であった。あ、そういえば一瞬橋爪功がカメオ登場するんだけれど、何のために出てきたの? 橋爪さん、どうしてもゴジラ映画に出演したかった?(笑)。

2023
GODZILLA MINUS ONE
日本  Color  125分
監督:山崎貴
製作:市川南
脚本:山崎貴
撮影:柴崎幸三
音楽:佐藤直紀
出演:神木隆之介浜辺美波山田裕貴、田中美央、遠藤雄弥、吉岡秀隆青木崇高安藤サクラ佐々木蔵之介阿南健治