吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

シン・ゴジラ

 今年の日本映画はこれで決まり! 

 1回目は2Dで鑑賞。2回目は4DXで。

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 やはりゴジラ映画は日本のものなのだ。と同時に、これまで誰も見たことがないゴジラ映画がここに完成した。危機管理映画として前例のない作品が、このたびの「ゴジラ」である。ひとたび大きな災厄が起こったときに、日本政府はどのように対処し、どんな組織が立ち上がるのか。その細部へのこだわりがこの映画の面白さの半分をかっさらった。残る半分は「ゴジラ」そのものである。

 かつてハリウッドで何度か映画化されたゴジラの造形は、とても許しがたいものが多くて、そもそも元祖ゴジラへのリスペクトに欠けていた。その点本作は、民俗学的な命名(呉爾羅)といい、元祖が持っていたモチーフをきちんと踏まえていることが大いに評価できる。

 見た目も第2形態の可愛らしいハイハイ幼児状態から二足歩行可能になったときの恐ろし気な姿まで、見所満載である。東京が次々に火炎放射に焼き払われるところは東京大空襲を彷彿とさせる惨状で、これまた初代ゴジラ第二次世界大戦の敗戦から10年も経たずに製作公開された作品であったことを思い出させる。

 この映画は公務員の友人たちにもたいそう評判がよくて、

「今のはどの省庁に言ったんですか」
「(作戦本部の)名前が長いなぁ」「はい、役所のすることですから」
「ここではどう動いても人事査定には影響ない。上下関係を気にせず発言せよ」

といったセリフがいちいちツボにはまったらしい。もちろんわたしもこういったセリフには笑ったし、この映画が大ヒットしているのも脚本の面白さにあると首肯する。だがよく考えてみると、そういう「公務員あるある」「会社人間あるある」物語というのは、ふだん目の前で起こっていることをそのまま再現しているわけで、なんでそんなものが面白いのだろう。人間は等身大の日常の出来事の再現を面白がる、という習性があるのだろうか。(念のために追記:わたしは公務員になったことも会社員になったこともない)

 ゴジラ出現という非日常の大惨事を前にして、日常のしがらみに縛られて右往左往する人間が描かれる一方、はみ出し者たちの奮闘が描かれる映画、という二面性がこの物語の面白さなのだろう。つまり、主役は〈組織内人間〉であってゴジラは脇役なのだ。

 まー、それにしても端役に至るまで名のある俳優を使うなど、製作陣の本気度には驚かされる。いったいいくら使ったんだろう。気になったのでググってみたら、15億という根拠不明の情報が溢れていたが、本当だろうか。そんなに安くてあれが作れるのか? 端役と言えば、御用学者(自分たちで呼び出しておいて「御用学者は役に立たん」と総理が言うとは片腹痛いわ)として登場する3人が原一男監督、犬童一心監督、緒方明監督で、ゴジラの存在を予言した科学者が写真だけで登場するがそれが岡本喜八監督である、というのも映画通には爆笑ポイント。ついでに、大活躍する「学会の異端児」というのは塚本晋也監督が演じている。

 庵野監督が3.11直後の政府の緊急対策会議等の公文書を読みまくってこの脚本を書いたということがパンフレットに書いてあった。やはり記録は大事だ。公文書もきちんと作成して保存されていたからこそ、この映画が作れたんだね。

 さて、クライマックスの圧巻は何といっても無人列車爆弾である。よくぞ新幹線を使ったもんです。私鉄各社も頑張った! しかしこれに対して阪急電車の公式Twitterが、「関西ゴジラにありそうな展開」というハッシュタグをつけて「うちの電車はアレには使えませんよ」とつぶやいて話題になった。そうなると南海か近鉄が頑張るか? 決戦場は大和川か。南海はバスも突っ込んでくるかもしれん。

 個人的にはこのハッシュタグでこれが秀逸と思う。
太陽の塔が逃げ遅れる」(太陽の塔が意味なくエロっぽいのが気になるが)
https://twitter.com/bnsk_kyuru/status/767257274473590784?lang=ja

 

  ところで本作で4DXを初体験した。実は4DXのことを3D眼鏡をかけて観るものと思い込んでいたのだが、メガネは無しで、画面は2Dのまま、座席が動いたり水が噴き出てきたり高圧の空気が足元に当たったりする、というシロモノであった。やたら座席が動くんだけど、びっくりしたり迫力を感じたのは最初だけで、椅子の動き方が単調なのでしまいに飽きてくる。しかもこの映画は会議の場面が長いため、そこでは椅子を動かしようがないからあまり4DXの出番がない。むしろ3Dで見たほうが迫力あって面白いように思う。

 最後にどうしてもぬぐえない疑問を一つ。なぜ皇族の疎開について協議しないのか?

 <追記>

Facebookにこの記事のことを書いたらコメント欄が盛り上がったので、読める人はどうぞ。

https://www.facebook.com/kayoko.taniai/posts/1143541012404066?pnref=story

SHIN GODZLLA

120分、日本、2016 
監督・脚本: 庵野秀明(総監督)、樋口真嗣、エグゼクティブプロデューサー: 山内章弘、撮影: 山田康介、音楽: 鷺巣詩郎
出演: 長谷川博己竹野内豊石原さとみ高良健吾松尾諭市川実日子余貴美子國村隼平泉成柄本明大杉漣