吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ドミノ

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 映画が始まる前に売店でパンフレットを買おうと思って、販売員の若いお姉さんに「パンフレット頂戴。アルゴ」と言ったら、「は?」という反応。あ、「アルゴ」ってベン・アフレックが監督としてアカデミー賞を獲った超面白い映画やんか、ちゃうちゃう、今回はベン・アフレックは監督じゃなくて主演や、えーっと、「ちょっと待ってね」とポケットから映画のチケットを出してタイトルを確かめた。「あ、ドミノ!」。お姉さんニッコリ。……年寄りはいややねぇ。

 さて映画は。これは騙しの映画だということを事前情報として仕入れてから見に行っているので、どの時点から騙されているのかとずっと半信半疑で見ていた。てっきり夢オチ系のそれかと思ったけど、微妙に違った。

 見事に映画らしい映画、映画という枠組みをとてもうまく作った映画だ。クリストファー・ノーランの「インセプション」や「メメント」みたいな、あるいはフランソワ・トリュフォーの「アメリカの夜」のような、はたまたウォシャウスキーきょうだいの「マトリックス」のような。

 この映画はぜひ事前情報なしで無心で見てほしい。原題は「催眠術」なので、そういう話だということは観客もわかっていて見ている。というか、天才的な催眠術師が登場するので、そのことはすぐにわかるのだが、その役にウィリアム・フィクトナーを配したのが本作の成功のもとだ。彼の独特の面構えが、いかにも怪しい催眠術師という雰囲気を醸し出している。そういう意味で本作はキャスティングがとてもよい。

 この映画の撮影場所には監督であるロバート・ロドリゲスのスタジオを使ったという。なんという贅沢だろう、世界中の監督が嫉妬するようなことではないか! 自分のスタジオを持っている監督なんてそうそういないからね。日本では宮崎駿ぐらいか。

 で、ストーリーの骨子は。主人公であるダニー・ローク刑事は、5年前にふと目を離した隙に5歳の愛娘ミニーを誘拐されてしまった。それ以来、娘の行方はようとして知れず、本人はすっかり心を病んでしまってカウンセリングに通う日々。そんな場面から映画は始まる。そこから、なぜ娘が行方不明になったのかを探るうちに、さらに多くの謎を背負うローク刑事の疑惑と活躍を描く。

 この映画にはいろいろと仕掛けがあって、ローク自身が催眠術にかかっている状態で目の前に起きていることを見ているので、観客にもその不自然さが伝わる。これはいったいどうなっているんだろう? 見ている観客のほうもだんだん様子がわからなくなり、混迷を深めていくころ、真相が明かされる。これは驚くべき映像効果だ。実に素晴らしいので拍手喝采したいところ。

 しかしここで騙されてはいけない。この映画はどこまでも観客をだますので、エンドクレジットの後までちゃんと見ておかないといけない。エンドクレジットが始まったからといって席を立ったり、DVDや配信を切ったりするのは絶対にやめるべし!

 というわけで、どこまで行ったら終わるんですか、この話は(苦笑)。

2023
HYPNOTIC
アメリカ  Color  94分
監督:ロバート・ロドリゲス
製作:レイサー・マックス、ロバート・ロドリゲスほか
脚本:ロバート・ロドリゲス、マックス・ボレンスタイン
撮影:パブロ・ベロン、ロバート・ロドリゲス
音楽:レベル・ロドリゲス
出演:ベン・アフレックアリシー・ブラガ、J・D・パルド、ハラ・フィンリー、ウィリアム・フィクトナー