天才と結婚した若き女性の苦悩という特殊なケースの話ではあるが、実はこれ、家父長の威厳を振り回したがる男と結婚した女一般の悲劇として語ることができるわけで、極めて今日的というか普遍性のある物語と見える。
19歳の時に37歳のゴダールと結婚した妻アンヌの手記が原作になっているため、彼女の視点から語られるゴダールは情けなく嫉妬に狂う男だったり、五月革命の嵐の中で迷走する監督だったりする。とても巨匠という姿には見えない、単なる軽佻浮薄な男に見える。こんな情けない映画だから、ゴダール当人はこの映画のことを完全に無視しているという。まあそれはそうだよね、今更50年も前の自分の姿を映画で曝されるなんて気持ちのいいことではない。
ヌーヴェルバーグの旗手として華々しく脚光を浴びたゴダールも1967年の新作については精彩を欠いていた。そんなとき、「中国女」のヒロインを演じた大学生に恋したゴダールは彼女にプロポーズして結婚する。1967年のことである。夢のように楽しい新婚生活が続いたかのようだが、フランスは政治の季節が吹き荒れた。五月革命である。革命に夢中になったゴダールは学生たちと行動を共にし、カンヌ映画さいを中止に追い込んだり商業映画への決別を宣言するなど、過激な行動に走る。
だが彼の思想とは裏腹に妻アンヌを束縛しようとして嫉妬に狂うのである。外で言ってることと家の中でやってることが違うという典型のような男ですな。
映画はかなり当時の雰囲気を再現することに成功していて、ゴダールを演じたルイ・ガレルもゴダールのしゃべり方をうまく真似ている(かどうかはわたしにはわからないけれど、うちのY太郎が言うにはそっくりだそう)。アンヌの服装もおしゃれで、痩身によく似合っていて魅力的だ。映画全体が華やかで笑いに満ちていて、ゴダールがとことん笑いものにされていて、当人が怒るのは当然と思うほど悲惨なのだが、ゴダールも真剣だったのにその真剣さを笑ってしまうフランス映画の底意地の悪さのようなものを感じた。
とはいえ、映画はかなり面白くて、五月革命の雰囲気が興味深く、あれから50年という展示会や映画が現在もそして今後もいくつも作られていくのだろうと、感慨深かった。
LE REDOUTABLE
108分、フランス、2017
監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス、製作:リア・サトゥーフ、原作:アンヌ・ヴィアゼムスキー『それからの彼女』
出演:ルイ・ガレル、ステイシー・マーティン、ベレニス・ベジョ、ミシャ・レスコー、グレゴリー・ガドゥボワ、フェリックス・キシル、アルトゥール・アルシエ