これは4月の初めに見たので、詳細はほとんど忘れてしまったのだが、実はとても面白かったのだ。
東西冷戦が終わったはずの米露のスパイ合戦がリアルに見られる興味深い映画。原作者が元CIA工作員だからかだろう、細部がリアルで迫力がある。主人公はジェニファー・ローレンス演じるバレエダンサーのドミニカ。彼女は将来を嘱望されていたが本番中のケガによってその夢を絶たれる。病気の母親の治療費が必要な彼女に手を差し伸べてくれたのは母の弟である叔父。叔父はロシア政府機関の人間であり、ドミニカの頭の良さと美貌に目を付け、ハニートラップ専門のスパイを要請する学校へ彼女を送り込む。厳しい訓練の後にスパイとなったドミニカは、ロシア内の二重スパイをあぶりだすためにCIA工作員に近づくという任務を帯びてブダペストに派遣される。
というお話で、とにかくジェニファー・ローレンスのサービス精神があふれるばかりに発露された、肌の露出度の高いエロティック・サスペンス。とはいえ、見所はそこよりも、個人の感情や生活をすべて犠牲にする国家の恐怖が冷戦が終わっても続いているロシアという国の特異さが際立つ点だろう。また、サスペンスとしても緊張感あふれる演出が優れていて、最後まで手に汗を握る。
ジェニファー・ローレンスは幼さの残る顔をしているのだが、妖艶な化粧を施し、美しく装ったときの大人っぽさがまたなんともいえないアンバランスな危うい魅力を放っている。とても達者な女優に成長していることが見て取れる。アクションシーンもちゃんと演技していて、これは「アトミックブロンド」のシャーリーズ・セロンの向こうを張る熱演。アクションの切れ味は「アトミックブロンド」に凱歌が挙がるが、サスペンスとしては「レッド・スパロー」のほうが面白い。
いずれにしても女スパイの話は男に復讐するという基本路線がきちんと踏まえられているので、非常に気持ちがよい。いっぽう、男性観客は居心地が悪いのではなかろうか。いや、ジェニファーの全裸が拝めるのだからそうでもないか。ここで忘れてならないのはシャーロット・ランプリング演じるスパイ学校の鬼教官。冷酷な彼女にも一目置かれるほどの根性を身に着けたドミニカが教官と対峙するシーンが見どころの一つだ。
ストーリーは二転三転し、禁断の恋の物語も切なく、最後まで大変面白く見ることができる。多少つじつまの合わないところに目をつぶれば、十分楽しめる。残虐な拷問シーンもあり、当然のようにR15+です。
RED SPARROW
140分、アメリカ、2018
監督:フランシス・ローレンス、原作:ジェイソン・マシューズ、脚本:ジャスティン・ヘイス、撮影:ジョー・ウィレムズ、音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ジェニファー・ローレンス、ジョエル・エドガートン、マティアス・スーナールツ、シャーロット・ランプリング、ジェレミー・アイアンズ