「黒いスーツを着た男」に出演したレダ・カテブつながりでこの映画をご紹介。
「全然面白くない。引き込まれるものがない」と散々文句を言いながらDVDを見ている長男Y太郎と同じ感想をもちつつ、しかし母子とも「でも、結末がどうなるのか知りたい」とずるずる見続けていた、という作品。ようするに、もったいぶった謎めかしが結局のところ最後まで観客を離さないだけの力を持ちつつ、しかし物語には吸引力がないという、魅力に欠けた映画である。
フランスのとある刑務所を舞台に、3組の物語が並行して語られるオムニバス形式の作品。この三組の物語がまったく交わることなく、ようやく最後の場面で「土曜日の面会室」という一点に集約していくのだが、だからといって結末に至ったところでカタルシスもなければ、あっと驚く展開もなく、なぜこの作品が評価されているのかさっぱりわからない。
この映画の<作り話めいた白々しさ>は、冒頭の場面でまず感じられる。おそらくどこかの刑務所の面会室の入り口なのだろう、長い行列ができているその中に一人の中年女性がいて、彼女はその娘と思われる少女の手を引いていて、衆人環視の下で身も世もなく泣き崩れている。その姿を呆然と、あるいは冷然と見つめる大勢の女たち。彼女たちもまた身内の受刑者に面会するためにやってきているのだろう。その冷たい視線が観客の視線と合致する。そんなふうに人前で泣くか、ふつう? もうこの場面でこの映画の「お芝居振り」に引いてしまう。
3組の話のうち、ひとつはどうしようもないバカたれ男の情けない話で、自分の恋人を暴行から救ってくれた男に頼まれて、自分と瓜二つという受刑者の身代わりになるというもの。もうひとつは、暴力行為で逮捕された恋人の面会のためにやってくる少女の初心(うぶ)な恋物語。もうひとつは、息子を殺されたアルジェリアの母が、犯人に真実を語ってほしいと願ってフランスにやってくる、という話。このうち心をこめて見ることができるのはアルジェの母の物語だけで、あとの二つはどうしようもないバカの話。最近、この手のバカにはついていけなくなった。同情する気も起こらない。
しかし、受刑者との入れ替わりを依頼される男の話がもっともスリリングなので、ついつい画面を見てしまうのだ。というわけで、結局最後まで見たけど、まあ、「ああそうですか」としか言えない様なつまらない話だった。
息子を殺された母親の演技が秀逸で、このパートだけで一本の作品を作るほうがいいと思う。このパートは見る価値あり。
QU'UN SEUL TIENNE ET LES AUTRES SUIVRONT
120分、フランス、2009
監督: レア・フェネール、脚本: レア・フェネール、カトリーヌ・パイエ、音楽: リュック・メイヤン
出演: ファリダ・ラウアジ、レダ・カテブ、デルフィーヌ・シュイヨー、ディナーラ・ドルカーロワ、マルク・バルベ、ポーリン・エチエンヌ