撮影が凝っている。最初ほとんどモノクロの画面から始まって徐々に色がついていく。ほとんど観客には悟られないぐらいのゆっくりしたペースで、気づいたらいつのまにかうっすらと色がついている、という感じ。かと思えばまたまたいつの間にかモノクロに戻っている、という不思議な映画だ。巻頭のモノクロシーンはとても美しかった。
きわめてシリアスな作品にも関わらず、途中でなんどか爆笑してしまった。こんなに恐ろしくも笑える映画ってなかなかのものだ。「ヒトラー最後の13日間」に通じるものがある。
その物語はこうだ。1945年春、敗戦必至なドイツ軍から一人の若者が脱落した。彼は脱走兵なのだが、逃走途中で偶然手に入れた将校の服を着こみ、その将校になりすました。やがて彼は部下を従えるようになり、その数が増していく。一脱走兵が堂々とナチスの将校へとなり上がっていく様が恐ろしい。実は周囲の兵士たちは彼が偽物であることに気づいていたのだ。にもかかわらず、全員が虎の威を借りる狐よろしく最後の権威にすがりつき、肩で風切って人民を弾圧し、収容所の囚人を虐殺する。こんな、ヒトラーの劣化コピーみたいな連中が大勢いてほんとうにおぞましい。
偽将校を一瞬で偽物だと見破った兵士こそがまったくの食わせ物であり最も残虐な人間だった。これが大衆社会のトリックであり構造なのだといわんばかりの物語にはぞっとする。しかもこれは実話なのである。現代に警鐘を鳴らす作品。怖い映画ほど笑えるというアイロニーもたっぷりの必見作。(レンタルDVD)
脚本:ロベルト・シュヴェンケ撮影:フロリアン・バルハウス音楽:マルティン・トードシャローヴ