吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

チチを撮りに

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 二十歳のフリーターと高校生の姉妹には家を出ていって新しい家族を作った父がいる。既に別れて14年が経つので、妹コハルには父の記憶がほとんどない。ある日父(元夫)危篤の報を受けた父の元妻である母は、娘たちに「お父さんのお見舞いに行きなさい。そして写真を撮って来て」と頼む。「今更会いたくもない、あんな男!死にそうな顔を見て『ざまあみろ』と言ってやるわ」と哄笑する母であった。

 乗り気がしないままに姉妹は父に会いにローカル線に乗って旅をする。しかし足柄駅に到着したとき既に父は亡くなっていた。。。。

 コミカルな展開であり、姉妹の言動がリアルでまた可笑しい。ほとんどなじみのない父が亡くなったからといって特段の感情がわいてくるわけでもないから、葬儀で彼女たちは完全に浮いている。ましてやその恰好!

 ちょっとしたセリフや設定が全部後で生きてくる絶妙の脚本もうまいし、母親役渡辺真起子の好演が光る。家族の新しい姿を描き、母子家庭の母の矜持をさりげなくそして鮮やかにユーモラスに描く腕前がいい。これが長編デビュー作の中野量太の才能が光る佳作だ。予算はほとんどかけていなくてもこんな映画が作れるというのは、なかなか日本映画も捨てたもんではない。(Amazonプライムビデオ)

(2012) 
74分、日本
監督・脚本:中野量太
出演:柳英里紗松原菜野花渡辺真起子滝藤賢一二階堂智、 小林海人