吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

百円の恋

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 主人公は32歳の引きこもり。見るからに何のとりえも魅力もなさそうな女。離婚して実家に帰ってきた妹と険悪な関係になったために引きこもっていた家を追い出されてしまった。やむなく100円ショップでアルバイトを始めるが、やる気のなさを全身からみなぎらせている。
 という女、一子を安藤サクラが演じる。この人ほんとうにうまい。目つきの悪い自信なさげな女を実に存在感たっぷりに演じる。何を言ってるのかよくわからないぼそぼそとしたセリフ回しなのに録音さん頑張っているよ、ちゃんとその声を拾っている。不器用に生きる女の前に現れたのは「バナナ男」こと、プロボクサーの狩野。なぜか一子とデートしたりなんかして付き合い始めるけれど、二人には何も甘いことは起きない。
 なんだかんだとあって狭いアパートに一緒に暮らし始めた二人だけれど、狩野は別の女ができて出て行ってしまう。そういう場面もまったくなんの修羅場もなくさらっと描いてしまうところが脱力系。
 やる気のなさ百パーセントだった一子だけれど、狩野が居たジムに通い始めて、自らボクシングを始める。そこからがすごい。だれきって何の締まりもなかった身体だった一子がマジに鍛え始めて、安藤サクラの身体も本当にしまってくるから驚くべし。相当に本人も鍛えまくったのだろう。一子がプロテスト目指して必死に練習するところは女ロッキーだよ、よくぞあのテーマ曲がかからないもんだ。
 人生を投げていたような一子が一念発起して努力する姿は尊い。こういう頑張る女の場面が出て来ると無条件に応援したくなるわたし。
 一子が勤める100円ショップでのコミカルな様子など演出は楽しいのだが、唯一、一子がレイプされる場面だけは不快感に満ちている。「こんな女だからレイプされたって」とついついレイプ犯も観客さえもそう思わされるような演出には違和感がある。
 とはいえ、生きていたってなにも楽しいことなんかない、何も達成感がないような生活を送っていた一子がボクシングを知って変わっていく様子が大変好ましい。わたしはボクシングは好きではないが、こういうふうに一人の人間を変えることができるなら、いいんじゃないのかと素直に思える。
 クライマックスの試合の場面では殴られまくる一子の痛々しさがわがことのように伝わって来て、涙が出そうだった。
 見終わってすがすがしさと希望がほんわかと押し寄せてくる、その感覚がとても好き。(Amazonプライムビデオ)
2014
113分、日本
監督:武正晴脚本:足立紳音楽:海田庄吾
出演:安藤サクラ新井浩文稲川実代子、根岸季衣