吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

はじまりのうた

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 イギリスからやってきた若きシンガーソングライターのグレタは恋人と別れて失意にあり、音楽プロデューサーのダンは長らくスランプが続いてとうとう自分が創設したレコード会社から解雇された。そんな二人がライブハウスで出会い、グレタの曲にほれ込んだダンが彼女を売り出すことで起死回生を図る、というストーリー。しかし、ストーリーだけを書いてもこの映画の魅力は半分も伝わらない。

 つかみの部分で同じシーンを重ねていくやり方といい、その後の展開でさりげなく登場人物の過去を見せていく手腕といい、実に洗練されていて、さらにグレタとダンがニューヨークの夜の街を徘徊しながら二人で同じ音源を聞いていくシーンのリズム感や高揚感、この二人が恋愛関係になるんじゃないかという緊張感など、演出がうまい。まさに映画ならではの作品だ。これを小説で描くことは無理だから、映画らしい映画と言えるだろう。

 互いに私生活に問題を抱えた二人の男女。音楽を通して気持ちが通じ合うようになる。そうなれば当然次は――と思うのが素人なのだが、ここで彼らが恋愛関係にならないのがいい。それぞれの再出発をかけたレコーディングは、なんと野外のゲリラ・ライブで。外の音も音楽のうち、というわけで臨場感あふれる楽曲が作り上げられる。お金がなければスタジオが借りられない。借りられなければ屋外でやろう。バンドを雇う金もないから一本釣りでメンバーを募る。「ド下手」というお墨付きの自分の娘だって動員しちゃうし、ついでに自分も久しぶりにベースを弾いちゃう。このノリノリの場面がまた楽しい。

 キーラ・ナイトレイの歌声は感心しないが、彼女の元恋人を演じたアダム・レヴィーンの歌唱はなかなかのもの。

 なんといっても結末がよかった。アメリカン・ドリームを軽々と超克する、この発想はイギリス人だから? さわやかな後味のお薦めの逸品。(レンタルDVD)

BEGIN AGAIN
104分、アメリカ、2013 
監督・脚本: ジョン・カーニー、製作: アンソニー・ブレグマンほか、撮影: ヤーロン・オーバック、音楽: グレッグ・アレクサンダー
出演: キーラ・ナイトレイマーク・ラファロヘイリー・スタインフェルドアダム・レヴィーン、ジェームズ・コーデン、ヤシーン・ベイ、キャサリン・キーナー