吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

12人の優しい日本人

 言わずと知れた「十二人の怒れる男」のパロディ。先にオリジナルを見ておいたほうが面白みは倍増する。

 オリジナルと同じく陪審員たちが密室に篭って殺人事件の有罪無罪をめぐり舌戦を繰り広げるという室内劇。途中休憩のトイレの場面までオリジナルのパロディになっており、なかなか楽しい。 
 既に何年も前から日本に陪審員制度があったという仮定で物語は進む。ハリウッド版と同じく、他の陪審員と違う意見を述べるのはたった一人。その一人のために、陪審員たちは激論を闘わせることになる。

 オリジナル作品との最大の違いは社会派性が薄れていること。人種差別や移民差別などへの批判が込められていたオリジナルと異なり、こちらは完全な娯楽作になっている。とはいえ、12人の個性は本作のほうが鮮明であり、それぞれのキャラクターがたまらなくおもしろく、「そうそう、いるよなぁ、こんな人」と思わせる。いかにも「12人の日本人」って感じで、国民性がよくわかる(わたしは気が弱く優しい中年女性にいたく好意を持ってしまった)。

 会話の間といい、台詞のおもしろさ、キャラクターの立ちかたも三谷幸喜作品らしく秀逸。やはり彼は映画的な作品よりも舞台劇に才能を発揮する人だ。ただし、本作を三谷が監督したのではなく、中原俊がメガホンをとったのは正解だろう。舞台劇そのままになりそうなところを非常にうまくカメラを使って臨場感を出している。画面に奥行きも感じられるし、中原監督の腕前はなかなかのものだ。

 難を言えば、映画にしては役者たちのしゃべり方が舞台っぽくて大げさでちょっとうるさい。あと、事件の真相を握るカギとなったある食べ物をもう少しうまく使ってほしかった。あっと驚く仕掛けがあるかと期待したが、ここはやや期待はずれ。

 とはいえ、最後の最後まで自説を曲げない男を口説き落とした台詞のひと言も見事に本歌取りとなっており、お奨めの作品です。役者はみんなうまいよ。ハリウッド版を先に見ましょう。(レンタルDVD)

製作年:1991
上映時間: 116分
製作国: 日本
監督: 中原俊
製作: 岡田裕
脚本: 三谷幸喜東京サンシャインボーイズ
撮影: 高間賢治
音楽: エリザベータ・ステファンスカ

出演: 塩見三省相島一之上田耕一、二瓶鮫一、中村まり子、豊川悦司、加藤善博