吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

Short Cut

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 これはケッサク。笑いつつ、感心しつつみていた作品。三谷幸喜のテレビ作品なので、場所は狭いし登場人物はほとんど二人で、「これひょっとして中井貴一鈴木京香の二人芝居なのか?」と怪しんだころに絶妙のタイミングで三人目が登場するという三人芝居。全編ワンカットというところがさらにすごい。また、ちゃんと山を下りていく過程が描かれているから、これはやっぱり舞台では無理だと思わせる広がりはある。
 というわけで、どんなお話かというと、ド田舎の山道で車が立ち往生したとある夫婦が、このままではにっちもさっちもいかないと納得して下車し、なんとか国道のあるところまで歩いていこうとする行程をほとんど夫婦の会話だけで成立させたもの。
 なにしろド田舎なので携帯電話の電波も立たない。そこは妻の実家のあるところで、結婚10年を過ぎた夫婦は実は普段は別居しているのだけれど、妻の実家で法事があったから仮面夫婦よろしく二人で参列したのであった。
 ここから先が面白い。国道まで出ようと二人は協力するのかしないのかよくわからない態勢で下山する。その過程で、妻たる鈴木京香がすごい運動神経をみせて木に登るわ、川に入るわ、山道を飛び跳ねるように降りるわ、驚くべき動きを見せる。一方の夫たる中井貴一は何かあるたびにいちいち叫んだり怖がったり、都会坊やのアホさ加減を丸出しにして笑いの的。
 観客にはこの夫婦のこれまでのいきさつは一切知らされないから、二人の会話を通していろいろと情報を得ることになる。そしていかにこの夫婦がお互いをないがしろにしてきたのかが判明し、お互いにいかに相手を知らなかったのかもわかる、というしくみ。
 先にも書いたように、この作品はワンカットで撮影されていて、その周到な計算ぶりには驚くばかり。たぶんアドリブとかセリフ舌噛みとかいろいろあったんだろうけれど、全部そのまま収録されていると思われるところもすごい。
 何よりも感嘆したのは鈴木京香のスタイルのよさとその敏捷性。中井貴一もこんなにコミカルな役ができたとは、なかなかのものである。
 二人が100分間にわたって山を下りていく最中にこれまでの夫婦の問題が剔抉されていくという趣旨であり、これはどんな夫婦にもありがちな話で、そういう点では普遍性のある話題であるところがついつい首肯してしまう点だ。会話劇でこれだけ魅せるのも三谷幸喜の腕と言わざるを得ない。
 タイトルの「short cut」は近道という意味だから、夫婦は近道を下って行ったつもりなんだよね、でもそうじゃなかった。そして、人生には近道なんかないんだよ。なかなか含蓄に満ちておりました。(Amazonプライムビデオ)
ショートカット
2011、TV映画、112分、日本
監督・脚本:三谷幸喜