先日、この映画について語り合う会があった。15人ほどの参加者の平均年齢は60歳を軽く超えている。みなが口々にいう映画の感想がちっとも映画評でなくて自分語りになっているところが印象に残った。つまり、それだけこの映画には観客が感情移入せざるをえない切実な現実があるということだ。戦争映画でも恋愛映画でもSFでもアクションでもなく、とにかくいま目の前にある出来事を描いた作品、ということで観客は自身を見つめるためにこの映画を見に行く。だから、映画を語る会も「映画を語る」といいながら自身の介護体験を語ることに終始する。
わたしが本作を映画館に見に行ったときも周囲は高齢者ばかりであり、映画の途中ですすり泣く声が聞こえていた。して、わたし自身はというと、父のパーキンソン病発症と母の認知症発症が同時であっただけに、介護はほんとうに大変だった。いや、大変だったのは弟だ。本当に弟がよくやってくれた。わたしは弟の苦労の十分の一も共有していないという後ろめたさがある。
して、この映画には不満が残る。あまりにもきれいごとの介護の現場。実際はこんなもんじゃない。こんなもんじゃないと口口に「映画を語る会」のメンバーが気色ばんでいた。そしてなによりも、施設ではなく家庭内で介護を完結させようとする母親の意識を変えさせることができていないところが一番批判を浴びていた。
それはともかく、山崎務の演技には脱帽。ほんとうにぼけているんじゃないかと思うほど、どんどんぼけていくその演技が素晴らしかった。山崎の演技を見るだけでも値打ちがある。
(2019)
127分
日本
監督: 中野量太
原作: 中島京子 『長いお別れ』
脚本: 中野量太 大野敏哉
音楽: 渡邊崇