吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ウェルカム トゥ ダリ

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 芸術家の伝記映画はたいてい面白い。何しろ人物そのものが奇矯であり、人生そのものが山あり谷ありの波乱万丈。普通に撮っていてもそれなりに見られる作品にはなるはずだ。それに本人の描いた作品もたくさん見られて幸せ。

 しかしこの映画ではダリの作品をほとんど見せない。そのかわり、変人ダリと彼を支配した年上妻ガラの不思議な夫婦関係がたっぷり見られて、いや実に面白かった。その二人の生活に絡むのが、アメリカ人美青年のジェームズ。彼らの出会いは、1974年、ダリとガラがNYで個展を開くために滞在していた高級ホテルにジェームズが荷物を届けにやってきたことがきっかけだった。

 美青年のジェームズはダリ夫妻に気に入られ、夜ごとに有名人たちと乱痴気騒ぎを繰り広げる彼らのスイートルームに入り浸るようになる。個展開催まであと3日というのにダリは1枚も絵を描いていない。恐妻家のダリにとって鬼のように怖くて愛しい女がガラであった。ダリの仕事が進まないのでガラは癇癪を起こし、ダリに仕事を強要する。かくして常識を覆すめちゃくちゃな作品作りが始まったのだった…。

 という、天才と狂気の紙一重世界を地で行くようなダリ夫妻に振り回されるジェームズ青年は、ついにスペインのダリ城までついていくことになる。そこで若き頃のダリとガラの出会いを知る。ダリとガラの関係はつねに第三者の愛人が存在するという、オープンマリッジだったし、ガラが若い男と寝ているところを覗き見するのがダリの趣味だった。そんなけったいな二人だからこそ生み出せた、あのシュールな作品の数々だったのだろう。しかし浪費が過ぎて彼らは破産寸前。さあどうなる。

 その後は、年上のガラが先に亡くなってしまったから、ダリはすっかり落ち込み、もう作品を生まなくなるのだ。ダリの作風そのもののようなサイケな映画だったが、最後はちょっと暗い。やっぱり芸術家の伝記映画は面白い。

2022
DALÍLAND
アメリカ / フランス / イギリス  Color  97分
監督:メアリー・ハロン
製作:エドワード・R・プレスマンほか
脚本:ジョン・C・ウォルシュ
撮影:マルセル・ザイスキンド
音楽:エドマンド・バット
出演:ベン・キングズレーバルバラ・スコヴァ、クリストファー・ブライニー、ルパート・グレイヴス、アレクサンダー・バイヤー、エズラ・ミラー