吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

君の名前で僕を呼んで

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 映画的至福の時、というのはこの映画を観ている瞬間を指す。これほど、見ていることが幸せでたまらない映画というのも少ない。1983年の北イタリアを舞台にした美しき青年たちの恋。ただそれだけが描かれているのに、この豊穣の光と水と心地よい会話の流れる風と緑の風景に心が洗われていく。もうこれほど、「恋」以外に描いているものがなにもないという潔さが素晴らしい。時代が1983年というのも、わたしの青春時代に重なる点が個人的にもポイントアップ項目。

 アラン・ドロン →ケヴィン・コスナー →マイケル・ファスベンダー →アーミー・ハマー と、各世代にわたしのアイドルがいて、本日は最も若いアーミー目当てで映画館まで行ってまいりましたよ~。月曜の昼間だというのに、なんでこんなに観客がいっぱいいるんでしょ。しかも若い女子が目立っております。 
 夏休みを過ごす田舎の古い邸宅には、大学教授の父親と美しい翻訳家の母、さらに美しき17歳の少年エリオがいて、彼らのもとに、6週間だけ滞在するインターン大学院生のオリヴァーがアメリカからやってきた。長身で美しく賢い青年オリヴァーは自信たっぷりの横柄な態度を見せ、エリオは反感を感じる。だがやがて互いに惹かれあうようになった彼らは、おずおずと禁断の恋の流れに身を任せていく。陽光あふれる美しい北イタリアの夏もやがては終わる。夏の終わりとともにオリヴァーはアメリカへ帰国するのだ。二人の別れの時は迫ってくる。。。。
 美しき青年たちはいつも短パンを履いて長い足を惜しげもなくさらしている。さらにしょっちゅう上半身裸になる。どんな観客層を狙っているのか一目瞭然ぶりが微笑ましい映画だ。案の定、映画館は女子高校生(か、女子大生)だらけ。
 そして二人の移動手段は基本的に自転車だ。ケータイのない時代だから電話は固定だし、伝言はメモや手紙を残す。いいねぇ、この感じ。エリオは貪るように読書の日々を過ごしているし、オリヴァーも優秀な学生だが、どうにも二人はあまり勉強しているように見えず、いつでも自転車に乗って野山を駈けているか川で泳いでいる呑気なバカンス人種にしか見えない。エリオはピアノに向かって作曲の勉強をしているから、音楽科の学生なのだろうか。エリオの家庭の中では英語とイタリア語が普通に交わされ、近所の女友達はフランス人だから彼女とはフランス語と英語でしゃべっている。このハイソな感じはいったい何? 典型的なユダヤインテリ家庭なのだろうと思わせる設定だ。
 エリオとオリヴァーがどちらもユダヤ人であることも二人が惹かれあう要因なのだろう。ダビデの星のペンダントをキラリと輝かせるオリヴァーの胸元が眩しくエリオの瞳を差す。やがてエリオもオリヴァーを真似てダビデの星のペンダントを着けるころにはもう、二人の恋心は決まっている。しかし、それでも二人はなかなか告白しない。ゆるりゆるり、そろりそろり、おずおずと近づいていく。決して無理はしないし、躊躇いがまた気持ちを駆り立てていく。なんてすばらしくゆったりとした関係性なのだろう。ベッドシーンがまた絵に描いたように美しくて。先月見た「ビート・パー・ミニット」のハードな男性同士のセックスシーンで免疫がついたおかげで、「君の名前で」のベッドシーンがとても柔らかくおしとやかに見える。

 最初から最後まで画面に映っているものがひたすら美しく一瞬一瞬がすべて絵画になるような、そんな映画、見終わった途端にもう一度見たいと心から思う、そのような映画だった。ああ~、たまりません。

CALL ME BY YOUR NAME
132分、イタリア/フランス/ブラジル/アメリカ、2017
監督:ルカ・グァダニーノ、原作:アンドレ・アシマン『君の名前で僕を呼んで』、脚本:ジェームズ・アイヴォリー、撮影:サヨムプー・ムックディプローム
出演:アーミー・ハマーティモシー・シャラメマイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール、エステール・ガレル、ヴィクトワール・デュボワ