吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

バーナデット ママは行方不明

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 ケイト・ブランシェットの演技力に舌を巻く作品。ほぼ彼女の顔を見ているだけで終わってしまうような。それだけで十分見ごたえがあるのにもかかわらず、なんとわたしは中盤以降で寝落ちして、バーナデットがなぜ「天才」と呼ばれた建築家の仕事をなげうったのか、その肝心な秘密を明らかにする部分を見損ねた。ちぇー。

 これはいつも思うことだが、こんな風に、バーナデットのように建築の天才が主人公で、その主人公が自分の天才を発揮するよりも家庭に閉じこもることを選び、そこから彼女自身の再生へと向かうという筋書きにはある種の違和感を感じる。そらええよな、天才は。いつでもやり直してまたもとの天才路線に戻ったらええやんか。なんの才能もない人間はどないしたらええんでっか。誰か教えてくれー。と叫びたくなる。

 そう。天才が天才ゆえに奇人ぶりを発揮し、人間嫌いが極まって、周囲の人々から浮きまくり、隣人とは諍いが絶えず、自分勝手にふるまい、隣人をはじめとしたママ友たちをバカにしまくり、しかしそれでも家族への愛につきうごかされて…

 でまあ、この家族はなんと、南極へ行くのでありました。広い郊外の屋敷に住み、屋敷じたいはおんぼろで雨漏りもするけれど、IT企業の優秀な社員であるパパはよく稼ぎ、娘は14歳のお年頃。で、ママは。ママは。ママはバーナデットというのである。しかもなんと、20年前は天才と呼ばれた若き建築家で、マッカーサー賞まで受賞していたのである。なんで今こうやって引きこもっているんですか? なんで毎日隣人たちに悪態をつきまくっているんですか?

 いろいろと理由はあるはず。その理由が明かされる場面でわたしはうっかり寝ていたよ。悔しい。

 家出したバーナデットの行き先が南極とか、破格に楽しい。ふつうありえん。金のない主婦が家出しても、行き先はせいぜいスーパーマーケット1階のカフェコーナーで150円のコーヒーをすするぐらいしか思いつかない。そこもまあすごいところで、南極でまた彼女は新しい人生を見つけてしまう。

 なにかと規模が大きい話なので現実味はないが、ケイト・ブランシェットの演技を見るというのが大きな目的となる作品。

2019
WHERE'D YOU GO, BERNADETTE
アメリカ  Color  108分
製作:ニーナ・ジェイコブソンほか
原作:マリア・センプル
撮影:シェーン・ケリー
音楽:サム・リップマン、グレアム・レイノルズ