吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

キング 罪の王

 というわけで、「告白」つながりでこの映画についても言及。

 復讐、罪、赦し、というテーマについて考えるならこの作品を措いてはおけないだろう。しかし、これほど後味の悪いものもそうはない。そういう意味で、テーマは100点。つまり、テーマについては大いに惹かれるが、描かれていることはあまりにも極端に過ぎて、思考実験をしているような気分になる。


 主演は麗しきガエルくんとウィリアム・ハート。この二人がからむと映画にミステリアスな色気と重厚さが増す。ガエルくんことエルビスは、除隊されたばかりの若者。このときのガエル君の精悍な短髪には惚れ惚れする。こんな息子がいたら可愛いなぁ〜と思うような好青年だ。彼は、一度も会ったことのない父に会いに、南部の町にやってきた。しかし彼の父は美しい妻と高校生の息子、娘を持つ敬虔な牧師として働いており、初めて会う我が子エルビスを邪険に扱う。「二度と近づくな」と厳命して。


 いくら瞼の父に冷たくされたからといって、あのようなすさまじい報復をするだろうか? リアリティがあるかどうかはともかくとして、美しき天使エルビスは表情一つ変えずに、父の家庭を崩壊させる。手始めは異母妹を誘惑すること。やがてエルビスの魔の手は確実に父の家族に伸びる……


 エルビスの異母弟であるポールは父と同じく牧師を目指している高校生だが、彼は狂信者である。あの雰囲気、どこかで見たことがあると気になって仕方がなかったのでDVDを途中で止めて調べてみたら、「ゼア・ウィル・ビ・ブラッド」で狂信者を演じていたポール・ダノではないか。そうか、このときの演技が買われて「ゼア・ウィル・ビ・ブラッド」でキリスト教原理主義者を演じたわけか。

 

 とにかくすさまじい。神はこのようなことを許すのだろうか? テーマとしては「シークレット・サンシャイン」にも似ているが、この罪を許せるか?というギリギリの問いを立てるためにこのような設定を考え出したジェームズ・マーシュには脱帽する。9.11以後だからこそ、このような問いかけがリアリティを持つのだろう。



 「神が赦した」という一言ですべての罪が許されるなら、わたしたちは何をしても赦されるはず。牧師たる父は果たして息子の罪を許すことができるのだろうか? 懺悔して天国へ。この恐ろしい最後の台詞には戦慄せざるを得ない。これから見る方は、あまりにも後味が悪いのでとにかく覚悟してください。(レンタルDVD)

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THE KING
105分、アメリカ、2005
監督: ジェームズ・マーシュ、脚本: ジェームズ・マーシュ、ロ・アディカ、音楽: マックス・エイヴリー・リクテンスタイン
出演: ガエル・ガルシア・ベルナルウィリアム・ハート、ペル・ジェームズ、ローラ・ハリング、ポール・ダノ