5月1日、メーデーの後で鑑賞した映画。今頃ですが…。
お話は、あまたある難病ものの中でもちょっと毛色が違っている。甘ったるさがほどよくそぎ落とされていて、しかも主役たちの演技が素晴らしいため、ぐっと感情をつかまれる。実際にこの映画の原作小説を書いた作家は20代で難病の原発性肺高血圧症に罹り、36歳で亡くなっている。我が身を投影した主人公・高林茉莉(たかばやし・まつり)の恋愛を描き、生きることの意味を問うた。
余命10年とは確かに長いのか短いのかわからない、微妙な時間だ。もちろん短いにきまっているのだ、まだ30歳にもならずに死なねばならないなんて! しかも余命10年の意味は、10年生きられるということではない。突然死の可能性もあるという恐ろしい病気だから、いつも死の恐怖を味わいながら生きることになる。主人公茉莉は二十歳でその病気に罹り、大学を中退した。いつ死ぬかわからないから恋愛も諦めた。決して恋などしないと決めて心を固くして生きている。
だが、そんなある日、友達に誘われて小学校の同窓会に参加した茉莉は運命の再会をすることになる。かつての同級生・真部和人は親元を離れて一人暮らしをしていたが、何をやってもうまくいかない生活に嫌気がさしていた……。
茉莉と和人は少しずつ距離を縮めていく。友人たちとの集団交際で遊び友達として仲良くなっていくが、茉莉は決して病気のことを友人たちにも言わず、和人とどんなに親しくなっても恋人になることを頑なに拒んでいた。
この映画は茉莉と和人の10年近くを描いていく。二人は何年もの年月をかけて少しずつ近づき、とうとう恋人になるのだが、常に死を見つめている茉莉は和人を完全に受け入れることができない。おとなしくて気弱な和人がそれでも勇気を振り絞って茉莉に愛を告白しても、茉莉はそっけなくするばかり。この距離感が映画を見ているほうもたまらなくつらい。なんでもっと素直に愛し合わないのだろう。不思議に思うのだけれど、その強い意志はなぜ生まれるのだろう。愛すればこそ相手と結ばれることを拒否する心情が切なくつらい。
二人を取り巻く人々が温かく優しく、みな素晴らしい演技で魅了してくれる。和人を雇うことになる居酒屋の主人を演じたリリー・フランキーなんかあまりにもいい味を出していて、こんな美味しい役をもらうなんてずるいと思うぐらいだ。そして、撮影に1年かけたという効果がてきめんの四季折々の風景に心が和む。季節がいくつもめぐっていく様子がよくわかる演出が心地よい。
死んでいく者と遺される者、どちらがつらいのだろう? 母と娘の会話のシーンのカメラの位置がとてもよく練られていて、この場面の演出にはぐっとつかまれた。最後までしみじみと主役二人の演技に惹きこまれていく二時間だった。
そしてわたしは、誰もが死に向かっている人生を生きる意味を嚙みしめながら、涙を拭きつつ劇場を後にした。
2021
日本 Color 124分
解説
監督:藤井道人
製作:高橋雅美ほか
原作:小坂流加
脚本:岡田惠和、渡邉真子
撮影:今村圭佑
音楽:RADWIMPS
出演:小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理、黒木華、田中哲司、原日出子、リリー・フランキー、松重豊