巻頭、「1953年7月」という字幕が映る。え? それって朝鮮戦争停戦時やんか! そう、この映画は停戦直前の最前線で偶然出会った南北朝鮮の兵士の物語。
1953年3月5日にスターリンが急死し、朝鮮戦争が終わると見込んだ投資家たちが株を売ったために一気に日本の株価が暴落し、世にいう「スターリン暴落」が起きた。隣国の戦争のおかげで戦後復興を果たした日本は、そのおいしい戦争が終わることによって不景気に見舞われるのである。遠くの戦争ほどおいしいものはない、と投資家たちがいう、その遠くの戦争が間もなく終わろうとしていたのだ。
本作は反戦映画とはいえ、かなりコミカルな作品で、戦闘場面は迫力があるのに登場する南北の兵士たちの行動がいちいち面白おかしい。北の共和国兵士はまだ十代の若さの初年兵であり、南の韓国軍兵士はその親ぐらいの年代の男だ。それぞれが上官から命じられた任務を全うするために血みどろになる。北の若い新人兵士はヨングァンといい、戦車部隊の唯一の生き残りであり、たった1台の戦車を北の共和国まで持ち帰らねばならない。一方の南の中年兵士はナムボクといい、機密文書の運搬を命じられていた。
南北境界線北緯38度線の北側で彼らは偶然出会った。朝鮮戦争の基本情報としては、以下のことを押さえておく必要がある。1950年6月25日に突如として北の軍隊が38度線を越えて進軍し、3日で南の首都ソウルは陥落した。あっという間に最南端の釜山まで追い詰められた韓国軍は米軍の上陸により3か月でソウルを奪還。その後は38度線をはさんで前線が南北に行ったり来たりしながら、停戦間際には前線は北側に食い込んでいた。
して、この映画はその停戦間際の38度線より北側を舞台にしている。のどかな農村風景が広がり、野原の中を牛が歩むようなコミカルな場面が続いていく。南のナンボクと北のヨングァンはたった一人でお互いに対峙するが、互いの利害が一致して共に戦車で前線に向かっていくことになる。そこで二人はいがみ合いながらもいつしかこころが通い合っていくのだが…。
言葉が通じる者同士の戦争というのもつらいものだ。無益な戦争であり二人とも早く家に帰りたいというのに、殺しあうのが祖国のためということになる。映画は予想通りに展開にしていくが、最後は果たして。
いよいよ停戦協定に調印された1953年7月27日、戦争は「終わった」はずなのになおも攻撃の手を緩めない最前線で、無駄に失われていく命の儚さに慄然とする結末が待っている。
コメディタッチで展開する話がやがて悲壮感を増していくという展開は、韓国映画によくあるパターンだが、演技力のある二人が熱演しているので見ごたえがあった。ほとんど話題にならなかった映画のような気がするし(公開していたことも知らなかった)、見終わって3日経ったら結末も忘れてしまったという作品だけれど、見られてよかった。(Amazonプライムビデオ)
2015
韓国 Color 112分
監督:チョン・ソンイル
脚本チョン・ソンイル
撮影:イ・ジェヒョク
出演:ソル・ギョング、ヨ・ジング