吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

浜の朝日の嘘つきどもと

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 こういう映画は面白くないという人が続出することが容易に想像できるのだが、わたしはこの物語の辻褄の合わなさも含めて面白いと思った。何よりも映画館への愛にあふれていて、こういう映画は好きだなあ。

 さて、その物語とは。福島県相馬市に実在する映画館“朝日座”の閉館をめぐって、なんとかそれを阻止したい若い女性の奮闘を描く。

 ある日突然キャリーケースを引きずって小さな映画館「朝日座」にやってきた茂木莉子(もぎりこ)は、映画館を閉じようとしてフィルムを焼いている館主に「なにをするんですか!」と駆け寄り、その手を止める。そこからは、この朝日座を絶対に閉めてはいけないと言い張る茂木莉子があの手この手でなんとか客を呼び込もうと頑張る姿が映し出される。そもそも彼女は何者なのか? なんでこんな田舎の小さな映画館にやってきたのか?

 その茂木莉子の背中を押したのは、彼女の恩師である田中茉莉子だった。映画を愛するその教師はかつて学校に馴染めない生徒だった茂木莉子にたくさんの映画を見せることによって黙って寄り添っていた。この個性あふれる田中先生の存在が何よりも光っている。

 朝日座をめぐる嘘は、映画そのものの嘘をも内包する。こんな物語、実際にはあり得ない! こんな偶然やあんな辻褄合わせやそんなとんとん拍子やら、あるもんか! そうですそうです、現実はこんなんじゃないよ、でもいじゃないの、映画なんだから! 映画の中では夢を見ましょう。この夢、わたしは楽しめたし。

 高畑充希、実にいい演技をしている。この女優さんは前から上手いと思っていたのだが、ますます感心した。

2021
日本  Color  114分
監督:タナダユキ
製作:河田卓司ほか
脚本:タナダユキ
音楽:加藤久
出演:高畑充希大久保佳代子柳家喬太郎甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑竹原ピストル光石研吉行和子