
見終わった瞬間にものすごく感動したので、思わず「今年ナンバーワン邦画」と叫びそうになったのだけれど、どうしても「ラブドール」という存在に違和感がぬぐえなかった。自分の最愛の人をかたどったラブドールが大勢の見も知らぬ男たちの性的欲望の対象とされることに当人はなにも疑問や嫌悪感を感じないのか? とても不思議だ。
映画は冒頭、「空が死んだ」という主人公・哲雄の独白から始まるから、「ああ、主人公の彼女が死ぬんだな」ということが観客にわかるようになっている。物語はそこから10年前にさかのぼっていく。
美大を卒業したけれど仕事がない哲雄はほとんど騙しのような手口でラブドール製作会社に就職することになる。ラブドールなんて可愛い名前だが、昔はダッチワイフと呼ばれていた、あれです。しかしかつてのダッチワイフと違ってずいぶん技巧が向上し、いまや本物と見まがうばかりの精密な人形だ。ほとんど人肌の感触すら感じられるように見える。もはや芸術のレベルに達しているのではなかろうか。
結婚して10年近くも彼は妻の園子に自分の本当の仕事を言えずにいた。しかし、哲雄が仕事に熱中する間に園子は病魔に侵されていたのだ。。。
まあ、設定はおよそ現実味がない。ネットの評価でも「夫の職業を10年も気づかないなんてありえない」という意見をたくさん読んだ。当然ですね、しかし気づかないのも当然だ。夫や父の仕事の中身を知らない家族がどれほど多いことか。10年間気づかなくても実は不思議ではないのだよ。
この映画はラブドールという性的対象物を中心に置きながら、その周囲にいる生身の人間を演じる蒼井優を中途半端にしか脱がせないという不自然な演出を施したゆえに、リアリティのない”清純”な雰囲気をかもしだしている。
しかし何よりも不自然、というよりわたしにとって違和感があるのは、自分の妻そっくりのラブドールを作りたいと思うかな、ということ。見知らぬ多くの男に彼女を売るという行為に嫌悪を感じないということに驚く。むしろ、そういう感覚が大事なのかもしれないが。わたしにはそういう感触は容認できないので、手放しで評価できない、微妙に居心地の悪い作品であった。
しかし、ラストシーンの哲雄のセリフはよかった。そうよね、自分の恋人がスケベっていうのはほんとにいいことなんだ!