吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

カラオケ行こ!

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 やくざ映画は嫌いなのだが、この作品のやくざは暴力沙汰もほぼ起こさないし、闇の仕事の気配をまったく感じさせずにひたすらカラオケで歌っているばかり。けったいな映画である。主人公のヤクザが綾野剛というところがいかにも、という納得感がある。

 そして綾野剛演じる主人公の狂児に渋々カラオケを指導することになる中学生が齋藤潤で、とても演技が上手いし、いい味を出している。齋藤潤の大阪弁は本物だと思うが、綾野剛のは努力してしゃべっているという感じがぬぐえない。とはいえ、なかなか上手である。と思ったら、齋藤潤も関西出身ではないから、あれは練習したのか。上手いもんです。

 それはともかく、背中に入れ墨だらけの狂児の姿が雨に濡れそぼって現れる巻頭の場面が実にいい感じだ。シャツが濡れて刺青が浮かび上がる演出が憎い。その恐ろし気な後ろ姿が醸し出す不穏な気配を裏切って、狂児は合唱祭が行われている会場に吸い込まれるように入っていく。そこで偶然目に入った中学生をスカウトしてしまう。この不思議な出会いが面白い。

 さらに、嫌々ながらもやくざの歌唱指導をすることになる中学生岡聡実(おかさとみ)のキャラクターも何とも言えず良い。本人は合唱部の部長なのに変声期を迎えてスランプだし、何かといえば彼に突っかかってくる後輩をあしらわねばならず、部の顧問は天然ボケみたいな女性教師だし、家庭のなかでは両親に気を使っているし、いろいろストレスがたまっていそうだ。だからなのかどうかはわからないが、おずおずとはであるが結構辛口の毒舌でヤクザにも接する。合唱部以外にも映画部の名ばかり部員にもなっていて、古いモノクロ映画をなぜかVHSビデオで鑑賞している。という、不思議な中学生なのだ。

 で、予想通りにこの中学生岡聡実とやくざはいつの間にか心を通わせていくのである。なんとまあ、とても心温まるほのぼのした映画なのだ。と思ったら大間違い。とにかくケッタイな話である。エンドクレジットの後もしっかり見ておかないと損するからね。ボーナスカットあり。

 こういう変則やくざ映画などというジャンルもあったのかと新たな発見のあった作品。(Amazonプライムビデオ)

2023
日本  Color  107分
監督:山下敦弘
原作:和山やま
脚本:野木亜紀子
音楽:世武裕子
出演:綾野剛、齋藤潤、芳根京子橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、坂井真紀、加藤雅也北村一輝