吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

かがみの孤城

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 原作は圧倒的な得票数で本屋大賞を獲得したファンタジー小説だそうな。なるほど、こういうファンタジーこそアニメにふさわしい。そして、鑑賞後のこの感動は原作の良さを実感させる。しかし、だからといって原作小説を読みたいという気にさせないということは、このアニメが映画作品として完結しているということだろう。

 いろいろ不思議に思うことや辻褄の合わないことはあるけれど、ファンタジーなんだから細かいことは気にせずに見ていられる。そんなことよりも、中学生たちの物語だというのに、いい歳をした大人が、孫たち世代の物語をハラハラしながら眺め、他人事と思えずに心を痛めてしまったり、可愛らしさににっこりしたりと、これほど映画世界にのめり込めることに感動した。さすがは原恵一監督作!

 さて、ストーリーは。主人公は中学生1年生の安西こころという少女。学校に行けずに家に引きこもっていたある日、自室の姿見の鏡がキラキラと妖しく輝いていることに気が付いた。鏡の前に立つとそのまま鏡に吸い込まれてしまったこころは、異世界の絶海の孤島に立つお城に転がり出た。そこには5人の中学生と、「オオカミさま」と自称する、狼の仮面をつけた幼い少女が居た。この世界での約束事がいくつかオオカミさまから告げられ、開かずの扉を開けるための鍵を6人で協力して探せと言われる。面白いことに、この城には有効期限があって、それは来年の3月末までだというではないか。そんな年度刻みのゲームってあるの? やがて6人の少年少女たちが全員引きこもりであることがわかり、彼らは現実世界で出会おうと約束するのだが……。

 異世界のお城での設定に不自然さが多くあり、彼らの共通点と異なる点の謎もすぐに観客にはわかりそうでわからないという、”肝心なことは見せない” 演出がなかなか憎い。納得できないような強引なストーリー展開もさほど気にはならないところが原恵一監督の演出力なのだろうか。主人公たちの心の機微が痛いほどこちらに伝わってくるのだ。

 学校にも家庭にも居場所がない、生きているのがつらいという思春期の子どもたちのヒリヒリするような感覚が巧みに描かれ、そしてそこになんとか手を差し伸べようとする大人の努力が胸を打つ。いくつもの謎を散りばめて観客の心を離さないストーリー展開も秀逸で、最後までまったく飽きずに見ていられる。

 見終わってから気づいたのは、原作は「ハケンアニメ!」と同じ辻村深月だったこと。こうなると、辻村原作の映画を見たくなるではないか。辻村深月、この人の作品は退職したら読みたい。

 エンドクレジットの最後にボーナスカットがある。登場人物たちの「その後」を描いたものだ。これもぜひお見逃しなく。

 2022
日本  116分
監督:原恵一
アニメーション制作:A-1 Pictures
演出:長友孝和
原作:辻村深月
脚本:丸尾みほ
音楽:富貴晴美
声の出演:こころ 當真あみ
リオン    北村匠海
アキ    吉柳咲良
スバル    板垣李光人
フウカ    横溝菜帆
マサムネ 高山みなみ
ウレシノ 梶裕貴
こころの母 麻生久美子
オオカミさま 芦田愛菜
喜多嶋先生 宮崎あおい