1914年夏に第一次世界大戦が始まったとき、クリスマスまでに終わると言われていたのに、実際には史上初の総力戦へと広がり、塹壕戦となった前線は膠着状態が続いていた。開戦から3年が経とうとしていた1917年4月、この映画の主人公である若きイギリス人上等兵2名が重要な任務を授けられる。
「ドイツ軍の罠にはまるな、明朝の総攻撃を中止せよ」。この命令を最前線にいる大佐に届けねばならない。命がけの伝令を彼らは全うできるのか?
第一次大戦の塹壕戦と言えば、かの名作「西部戦線異状なし」(1930年)をすぐさま想起する。クリスマス休戦となった塹壕で歌ったオペラ歌手を描いた「戦場のアリア」(2005年)も感動的だった。そしてこのたび、塹壕を駆け抜ける緊迫のアクション映画が生まれた。それも全編ワンカットでの驚異の撮影による。
ワンカットに見えることにこだわったため、カメラマンと録音係は役者と一緒に戦場を走り、照明を使えないために撮影は至難の業であったという。なのでこの映画は本編だけではなく撮影現場を記録したメイキングビデオも見どころである。
して、そのワンカットが生み出す迫真の戦場はフランス東部に掘られた長い長い塹壕。2名の伝令はドイツ軍が撤退した後の空の塹壕を歩き、破壊された町を過ぎる。その道中はもちろん危険だらけだ。仕掛けられた爆弾に触れてしまうわ、建物に潜んでいるスナイパーに狙われるわ、戦闘機は墜落してくるわ、と命がいくつあっても足りない戦場を、観客は兵士と共に恐怖にかられながら体験するのだ。兵士と馬の腐乱死体が転がる坂を這いずる場面では、本作が唯一再現できなかった「臭い」がついていなくてよかったと、わたしなどは胸をなでおろしたものだ。
ワンカット撮影では映画の中の時間と観客の時間がリアルに共有される。物語が進むにつれて、ワンカットであるかどうかも忘れて観客は画面に没入していくのだ。ワンカットでどうやって14キロの道のりを2時間以内に収めるのか不思議だったが、脚本はよく練られていて、その困難をクリアしている。
山越え川越えのスリルあり、戦場の悲惨、若者の犠牲といったドラマ部分にも目配りした本作は劇場でないとその迫力を堪能できない。ワンカット撮影に凝るあまり、多少ドラマ部分が弱くなってしまったのがこの映画の弱点だが、それでも必ず映画館で見てほしい必見作のひとつ。 (機関紙編集者クラブ「編集サービス」2020年1月号に掲載)
原題:19172019年 119分
イギリス / アメリカ Color
監督:サム・メンデス
脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
撮影:ロジャー・ディーキンス
編集:リー・スミス
音楽:トーマス・ニューマン
出演:ジョージ・マッケイディーン=チャールズ・チャップマン