吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

バニシング

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 1900年12月に実際に起きた、灯台守3人失踪事件を元に大胆な推理を働かせて作られた物語。登場人物は限られており、舞台は島の一部だけ、寒風吹きすさぶ北海の荒波、という閉塞感極まる映画に心も凍える。非常によくできた心理サスペンスでもあり、期待せずに見始めたゆえにか、いっそう見ごたえがあった。

 この事件についてはWikipediaにも記載がある。事実としてはこうだ。スコットランド沖の無人島で3人の灯台守が忽然と姿を消した、しかし理由はわからず、さまざまな憶測が飛び交ったが、結局真相は闇の中である。

 して、本作ではこの事件を元にフィクションとして事件を再現している。実際の三人の年齢や経歴を変更しているのだが、大枠は事実通りと思われる。ただし、細部は全部想像なので、その創造/想像の部分にこそ人間心理と欲望が如実に表れていて興味深い。そもそも、この無人島に金塊を積んだ小舟が漂着したという当初の設定からして想像の範囲内である。

 男たちの欲望、恐怖、疑心暗鬼、仲間意識がさまざまに交錯する、見事な心理劇が展開される。20世紀に入ろうとするときにもなお、孤絶された島の灯台守という仕事が存在したことにも驚きを禁じ得ないし、彼らがいなければ船は安全に航行できなかったのだから、その任務の重大さは想像に余りある。にもかかわらず、おそらく彼らの給与などの条件は悪かったのだろう。だからこそこのような欲にかられた事件が発生したと思われる。

 そして、人が壊れていく過程が実に恐怖に満ちて説得力があるだけに、本当に恐ろしい。見ごたえある作品だった。(Amazonプライムビデオ)

2018
KEEPERS
イギリス Color 107分
監督:クリストファー・ニーホルム
製作:ジェラルド・バトラーほか
脚本:ケリン・ジョーンズ、ジョー・ボーン
撮影:ヨルゲン・ヨハンソン
音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ
出演:ジェラルド・バトラー、ピーター・ミュラン、コナー・スウィンデルズ、ソーレン・マリン