吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

県庁の星

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 数年ぶりに見直してみて、またまた感動した。

 これは公務員バッシングや新自由主義、官民連携などの現在に続く問題の出発点を描いている優れた作品だ。

 全体としてはコメディの要素が強いのだが、織田裕二が生真面目な公務員を演じてその強面(こわもて)の面構えを思う存分発揮している。

 さて物語は。とある県庁の若きエリート職員野村は出世にしか興味がない。学校ではいつも一番の成績だった彼は県庁でも上を目指している。すべてそつなくこなす優秀な彼は200億円のプロジェクトの一員となることを当面の目標としていたが、その前に「官民交流事業」というハードルが立ちふさがっていた。いやいやながらも「民間の知恵を学びに」スーパーに派遣されることとなった野村。しかしそのスーパーは風前の灯火の不採算店だった。店長たちは野村を「県庁さん」と呼んで下にも置かない扱いだが、敬して遠ざけるの典型か、とにかく邪魔者あつかいの野村を若くて優秀なパート女性押し付けた。「教育係」と称して…。 

 『県庁の星』(けんちょうのほし)は、桂望実(かつら・のぞみ)の小説。小学館より2005年9月に発刊。2005年に漫画化、そして2006年に映画化された。「聖域なき構造改革」を唱えた小泉改革を背景にしている。小泉純一郎内閣(2001-2006年)の時、「官から民へ」がスローガンとなり、「指定管理者制度」などが導入された。そういった一連の流れをきっちり織り込んだ上でコメディとしてそつない脚本を練り上げている。

 当初対立していた野村とパートの二宮がぶつかり合いながらも互いを認め合っていくという展開はわりと早くから読める、お約束のような話だが、ストーリーが分かっているからといって侮ってはいけない。二宮を演じた柴咲コウの目ぢからが半端ないので、役にぴったりだし、そのきつい性格の二宮がいつのまにか県庁さんに一目置くようになり、彼女の視線が次第に柔らかくなっていく演出もよい。

 この映画は単純な公務員批判でもなく、民間だからいい、という論調でもない。双方の良いところと悪いところを見極めていこうとする姿勢がある。ラストはなかなか厳しいものがあり、お役所はそう簡単にはかわらない、という皮肉がたっぷり。

 この映画公開から既に10年以上がたち、原作小説の世界からは15年が経とうとしている。新自由主義行政改革の波は相当に根深くこの社会を蝕んでいる。「お役所仕事」の改革は当然だが、そのために大量に生み出した非正規公務員の問題についてはこの映画とはまた別の物語だ。(Amazonプライムビデオ)

2006
日本  Color  131分 

監督:
西谷弘
製作:
島谷能成、亀山千広ほか