吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

サバイバルファミリー

f:id:ginyu:20190915003826p:plain

 ある日突然、すべての電源が消失するというSFコメディ。コメディと言いながらかなり真面目だし、でもやっぱり設定は大甘だし、ジャンルものとしては中途半端なところがいけなかったね。しかし、単なる停電と違ってすべての電力が喪失するという発想が秀逸だった。

 余談だが、後日「この映画が面白かったよ」と大学の同窓生の集まりでしゃべったら、「あらゆる電気が発生しない状態」というのを彼らは「電気が発生しないということは、マイナスイオンが……」とたちまち科学知識を動員して真相解明を始めたのにはたまげた。純粋文系人間のわたくしには全然わからない理屈でありました~。

 閑話休題。本作は東京に住む平凡な一家がいかにしてサバイバルを成し遂げたかというロードムービーであるわけだが、何よりもこの映画の設定で恐ろしかったのは、全電源喪失という事態である。つまり、充電してあった携帯電話も使えないし、電池も使えない。だから、電気で動くものは一切使えない。つまり、あらゆる物流が止まり、情報も入手できない。そもそも電気が使えないのがこの町だけのことなのか、関東地方だけのことなのか、全世界のことなのか、それすらわからない。わからないということほど恐ろしいことはない。この事態が2日で終わるのか一ヶ月で終わるのか永遠に続くのか、誰にもわからないのだ。だからこそ、次の行動の判断がつかない。

 最初こそのほほんとしていた平凡な鈴木一家は、一年発起して自転車で東京から鹿児島の妻の実家へ向かうこととなる。道中のサバイバルがけっこうリアルで怖い。仕事人間で家族から無視されていたお父さんが命懸けで頑張るところなんか、泣かせる。まあ、ありきたりの家族再生ものと言えなくもないが、見せ場はいろいろあって飽きない。

 しかし、この映画の最大の難点は原発問題を無視したことだ。全電源を喪失したら日本中のすべての原発が爆発するはずなのに、そういう事態にはならない(のかどうかすら不明)。ここがまったくリアリティのないところだ。そして、もっと世界中が阿鼻叫喚になっているはずなのにえらく平和で静かなのも解せない。

 しかし、発想は面白いし、考えさせられる映画であった。(Amazonプライムビデオ)

(2017)
117分、日本
監督:矢口史靖
製作:石原隆ほか
脚本:矢口史靖
脚本協力:矢口純子
撮影:葛西誉仁
音楽:野村卓史