失政のツケは常に市井の人々に回る。大きな歴史の物語はひとつの家族の不幸として紡がれていく。
一人っ子政策への批判を込めた、30年に及ぶ家族の記録は中国現代史そのままをなぞる。とはいえ、そのまますんなりと時間の経過をたどるわけではなく、映画は現在と過去が何度も交錯し、過去もまっすぐに未来に向かっているわけではない、ジグザグの展開を見せる。1994年から始まる物語は1980年代に戻ったと思えば2000年代へと跳び、再び1994年に戻っては2010年代(現在)に一気に進み、そして一瞬また1994年へと戻る。
このように時代が何の断りもなく、カーテンを開けるように入れ替わってしまうために、少々理解が難しい。そして何度も物語が戻る1994年にいったい何があったのか……。
1980年代、偶然にも同じ年の同じ日に息子が誕生した二組の夫婦は同じ工場で働き、義兄弟の契りを交わして貧しいながらも仲良く暮らしていた。その友情はいつまでも続くはずだったのに……。
時は過ぎ、たった一人の子どもを喪った親の悲しみは癒えず、彼らは故郷を捨てて零落していく。一人っ子政策を強要する国の指示を、実際には末端の庶民が抑圧者として担うのだ。主人公夫婦はせっかく授かった第二子を産むことを許されなかった。中絶手術を強要したのは地区の計画生育担当者へと出世した親友だったのだ。彼らの悲しみと後悔と自責の念はすれ違ったまま、長い歳月が流れてしまった。
一方は流れ流れて貧しい生活をしている主人公夫婦、もう一方は改革開放政策に乗って金持ちになった親友夫婦。だが彼らは共に苦しみを心の奥底に抱えていた。その澱みがいつか清らかになる日が来るのだろうか 。
原題「地久天長」は永遠の友情を歌う、日本では「蛍の光」として知られているあのメロディに歌詞をつけたものだ。そのメロディが何度も流れ、改革開放政策により、現代中国はそれまでにも増して激変する時代を迎えた。その時代の中で変わってしまったもの、変わらなかったものを二組の夫婦の生活に見せる、見事な脚本だ。
主人公夫婦を演じたワン・ジンチュンとヨン・メイは、共に印象的な演技でベルリン国際映画祭最優秀賞を受賞した。寡黙な二人は瞳の奥に精いっぱいの悲しみと悔しさを湛え、老いてからの演技では本当に長い間連れ添った夫婦のような味わいを見せてくれる。
ところで、この映画で登場する料理がとても美味しそうで、心がなごむ。とりわけ、清貧の家族の食卓に上るほかほかの饅頭が印象的だ。この饅頭は二度登場する。そのアナロジーが見事で、演出の冴えが光る場面だ。
現在の中国へとたどり着いた物語の果てに、長い苦しみと悲しみが浄化される涙とともに、わたしたちは受け繋がれていく命の輝きを知る。 しみじみと胸を打つ作品。
地久天長
SO LONG, MY SON
中国 2019
監督:ワン・シャオシュアイ出演:ワン・ジンチュン | ヨン・メイ | チー・シー