吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ジュディ 虹の彼方に

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 「エディット・ピアフ 愛の賛歌」を見たときと同じ種類の感動を味わった。タイトルロールの被伝者への敬意と憐憫、そして演じた女優の努力と才能への驚嘆。
 ”芸能界で消費されていく幼い才能”という悲劇がジュディの生涯を覆った。その最期の輝きが見られた、死ぬ直前に行われたロンドン公演を描くのが本作だ(本当のラストコンサートはロンドンの直後、コペンハーゲン)。
 借金まみれでホテルも追い出され、幼い子どもたちと路頭に迷うジュディは、もはやマネージャーを雇う金もない。4回の離婚で生んだ子どもは3人。長女は後にライザ・ミネリとして大スターになる。そのライザも映画に登場して、演じた女優がまたよく本人に似ている。娘ライザは既に成人して母親とは一緒に暮らしていないが、ジュディは下の二人の子どもたちの親権を別れた夫と争っている。子どもたちと一緒に暮らすためにもお金がいる。背に腹をかえられないジュディはいやいやながらもロンドンへ赴く。
 3歳になる前から舞台に立っていたというジュディの子役時代の回想がなんども挿入される。彼女がいかにハリウッドのプロデューサーたちに酷使され搾取されたかがよくわかる。興奮剤と睡眠薬を交互に投与され、身体も心もボロボロになったジュディがお金の使い方も知らないような大人になってしまったであろうことは容易に想像できる。そしてわがまま気ままで周囲を振り回し、結婚生活もすぐに破綻する。最後の結婚がこの映画で描かれるが、それも早々に破綻を予感させている。典型的なスター病だったといえるのではなかろうか。
 しかし映画はそんなジュディに愛を込めて作られている。ありあまる才能がありながら酒に溺れ薬漬けになっている彼女の悲劇を、それでもファンとの心温まる交流によって最後の日々が光に溢れていた、と熱い思いで伝えている。
 レネ・ゼルウィーガーがこの演技でアカデミー賞を獲ったことはじゅうぶん納得できる。ジュディ本人に負けないぐらいの歌唱力を披露し、歩き方も笑い方もジュディになりきっている。この作品のために1年間歌のレッスンを続けたという。その努力も並大抵ではない。
 最後の日々が決して不幸ではなかった、と観客が心温まる思いを抱いて映画館を後にすることができる映画だ。公演のクライマックスでジュディが歌えなくなったとき、舞台の彼女に向かってさし出されたファンの温かい歌声。。。涙なしには観られません。
 ゲイとして虐げられてきた人々へ寄せるジュディの共感も、今の時代ならでは描きかただとおもったのだが、実は彼女が今も語り継がれる「ゲイのアイコン」だったとは知らなかった(恥)。なるほど、だからゲイパレードの旗印はレインボーフラッグなんだ。
2019
JUDY
アメリカ  Color  118分 
監督:ルパート・グールド
製作:
デヴィッド・リヴィングストーン
原作戯曲:ピーター・クィルター
脚本:
トム・エッジ
音楽:
ガブリエル・ヤレド
出演:
レネー・ゼルウィガージェシー・バックリー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェルマイケル・ガンボン