吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

アルキメデスの大戦

 

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 7月末に見た映画。予想外に面白かったので、思わず原作漫画を電子版で購入してしまった。で、この映画は原作のほんのさわりの部分を描いただけに過ぎないということがわかった。わたしは原作のもつ歴史描写に引き込まれたと同時に、メカの絵ぢからに大いに感嘆した。映画がこの長い原作総てを描けないのは仕方がないだろう。

 圧巻の巻頭、戦艦大和が沈没するシーンの怖さは「タイタニック」以来の出来だ。いきなりこれだから、このあとこの映画はどうなるのかと期待で胸が膨らむ。しかし、その後はずっとドラマが続いて、戦闘シーンは結局巻頭の数分だけであった。製作費のほとんどをここにかけたんじゃないかと思われるほどの迫力だっただけに、最後にもう一度見せてほしかった。実に惜しまれる。山崎貴監督得意のVFXなのだから、もっとふんだんに見せてくれてもよかろうに~。

 さて物語は、数学の天才の誉れ高い東京帝大の学生がある誤解から大学を放校されて自棄になっているところを海軍少将山本五十六に見込まれてスカウトされる、という冒頭からかなり主人公の変人キャラが立っていて、ユーモラスだ。ここも原作と異なるところで、原作の主人公・櫂直(かい ただし)は頭が切れる真面目人間で、さほどユーモアのセンスがあるとは思えない人物。だが映画的な面白さを狙った脚本では、櫂少佐と彼の付き人になる田中少尉が最初のうちかなり険悪な雰囲気に描かれている。

 軍人嫌いの櫂がなぜ海軍に奉職したのか、それは彼が平和を願う若者であったからだ。数学の力で戦艦大和の建造を阻止し、アメリカとの戦争を抑止するという彼の理想が描かれていくが、歴史はそのようには動かなかったことは誰もが知っている。

 天才数学者らしい驚異の計算力で周囲を圧倒する櫂少佐を菅田将暉が熱演していて(彼はいつも熱演)、黒板に向かって板書するシーンなどは実に緊迫感にみちた演出でよかった。その数式がほんとうに正しいのかどうかなんてわたしみたいな数学不明の観客にはどうでもいいことで、すらすらと書き進むその手元が美しい。この場面のことを共演の國村準が「監督が全然カメラを止めなかった。どうせカットを割るくせに、意地悪だなあと思った(笑)」(大意)と語っているインタビュー映像を見て納得したが、その場面のことを菅田将暉は「自分は共演者たちに背中を向けてひたすら板書している。自分が書いている数式をみながどんなふうに見ているのか全然わからないから緊張した」(大意)ということを言っていた。

 本作はアーカイブズ映画でもある。膨大な経営資料のアーカイブズがなければ、櫂少佐の企みは成功しなかった。企業アーカイブズは大事なのだ。 

2019
 130分
日本

監督:山崎貴
製作:市川南
原作:三田紀房
脚本:山崎貴
撮影:柴崎幸三