吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

君たちはどう生きるか

https://eiga.k-img.com/images/movie/98573/photo/d50350766dc55a37/640.jpg?1692318943

 ほぼ一切宣伝しないという戦略が当たったようで、劇場は大入り満員とか。わたしが見た回はそれほど混んでいなかったし、観客は高齢者が多かった。これは古くからのジブリファンへのサービスのような作品だった。絵の素晴らしさは言うまでもない。この風景、この空気、そして登場人物の顔立ち。いかにも宮崎駿だと思わせられる。過去作への参照も数多い。「あ、湯婆やな、これは」「あ、ナウシカに似てる」「千と千尋の神隠しか」「でっかい飛行石かな」と脳内でめくるめく過去作が行きかう。 

 母を亡くした少年を主人公に設定したために、どうしてもマザコン少年物語になってしまうのはやむを得ない。太平洋戦争下、父親は軍需工場の経営者で、母親は田舎の名家の出で既に病死しており、母の妹がこのたび後妻となることが決まった。東京を離れて疎開先となった母の実家は広大なお屋敷で、湯婆のような老女が何人もかしずいていた。ほとんど記憶になかった母の妹は亡母にそっくりで驚く。

 その若く美しい継母になじめないものを感じている主人公が、古い大きな邸宅の敷地内にある不思議な塔、それは既に入口が封鎖されているのだが、そこに好奇心をそそられて入っていこうとする。昔、大叔父さんがその塔を書斎としていたが、突然行方不明になったままだという話もババたちに聞いた。

 ここからが怪しい異世界物語。ファンタジー全開で、鳥がたくさん登場し、しかも人間を食おうとする可愛くて恐ろしい鳥さんたち。世界の均衡は誰が担っているのか、異次元で出会う少女は誰なのか、謎が謎を呼び、かつ話は次々と飛び跳ねるため、先が読めない。一度見ただけではいったい何のメタファーなのかよくわからなかった。もう一度見たい気がするが、疲れそうだし考え中。パンフレット早く売り出さないかしら。

 戦争中の話なのに、日本が戦争することの意味が描かれていなくて、少年にとって戦争がどのように彼の生活に影を落としているのかがよくわからない。父親は軍需工場の経営者なのだから、戦後はいったいどうなったのだろう。いろいろと疑問符が付く。

 現実の悲惨な戦争とは無関係に展開するファンタジーの世界での少年の冒険という物語設定に、腑に落ちないものを感じたまま映画館を後にした。「君たちはどう生きるか」という問いかけが感じられないのが最大の難点か。

2023
THE BOY AND THE HERON
日本  Color  124分
監督:宮崎駿
製作:スタジオジブリ
プロデューサー:鈴木敏夫
原作:宮崎駿
脚本:宮崎駿
作画監督本田雄
音楽:久石譲
声の出演:眞人(まひと) 山時聡真
青サギ ・ サギ男    菅田将暉
キリコ    柴咲コウ
ヒミ     あいみょん
夏子(なつこ) 木村佳乃
勝一(しょういち) 木村拓哉
いずみ 竹下景子
うたこ    風吹ジュン
えりこ    阿川佐和子
ワラワラ     滝沢カレン
あいこ    大竹しのぶ
インコ大王 國村隼
ペリカン 小林薫
大伯父 火野正平