

ある日突然幼な子二人を残して妻が失踪した。夫は突然の出来事に困惑しながらも、子育てに追われて孤軍奮闘。仕事人間だった彼は日常家事の何をどうしていいのかもわからず、懸命に子どもたちを育て、そしていなくなった妻の行方の手がかりを得ようとするが。。。
という展開はまさに「クレイマー、クレイマー」(1979年)そのものだが、この作品との違いは、「クレイマー」が心温まるユーモアに溢れていたのに対して、「パパは奮闘中!」はその楽し気なタイトル(原題は「私たちの闘い」)と裏腹にたいへんシビアで暗い画風であるという点。コメディっぽいタイトルと笑顔のポスターに騙される観客も多いのではないか。全然明るくないし見ていてどんどんつらくなってくる。
だが、感心した点もある。フランス映画の「パパは奮闘中」には労働組合の存在が描かれていることだ。クレイマー氏は一人で子育てを頑張っていたが、その結果失業してしまった。対して、フランスの主人公オリヴィエは実家の母や妹の助けを得るし、職場の仲間もなにかと支援の手を差し伸べてくれたり、新たな仕事のオファーをくれたりする。アメリカでは個人の身にかかった不幸は自己責任で本人が解決しようとするが、フランスでは仲間が助けあう。オリヴィエを助けてくれる人たちがいるのは、彼がもともと普段から仲間を思いやっていたからだ。
しかし、米仏のパパはどちらも仕事中毒であったことは間違いない。その結果家庭を顧みず、妻の不満や精神的疾患にも気づかなかった。クレイマーの場合は妻がはっきりと不満を述べて家を出たが、オリヴィエの妻は何も告げずにある日突然失踪してしまった。何日か経ってからやっと手紙が家に届いたのである。
クレイマー夫妻は離婚して泥沼裁判が始まったが、オリヴィエたちはどうなるのだろう。
この映画の特筆すべき点はロマン・デュリスの熱演と子役の愛らしさである。ロマン・デュリスはこれまでの役のイメージを払拭するような、普通の労働者を地道に演じている。そして子役二人が本当に愛らしくて、セリフはほとんどアドリブと思えるほど自然だ。
この映画が、ネット販売の大規模配送センターでの仕事の様子を描く労働映画でもあることが見どころの一つ。労働組合の存在に力を得る人、失望する人、それぞれに組合活動に熱心に取り組むからこその現実の苦難もまた誠実に描かれる。さすがは黄色いベスト運動がいまだに続くフランスらしく、労働組合のデモも頻繁に行われている。
また、オリヴィエが等身大の人間として苦悩し、妻の家出中に他の女性によろめいたり、家族に八つ当たりしたり、と本当にそのリアリティに涙ぐむほどだ。
妻の必死の「逃亡」が夫を目覚めさせ、家族を再び再会させられるのかどうか。結論は出ない。 全般に暗い話が展開するにもかかわらず子どもたちの愛らしさがその息の詰まるような雰囲気に風穴を開けてくれるし、なんといってもラストがいい。最後の最後に、「ああ、この映画を観てよかった」と思えた。労働者万歳!