是枝裕和監督の弟子である、広瀬奈々子監督のデビュー作。なるほど、作風がよく似ている。是枝監督と同じく、物語に落ちを付けない人だ。
物語は、8年前に妻子を亡くした中年男がある日河原で倒れている若者を拾い、自宅で介護して自分が経営する木工所で働かせるようになる、というもの。訳ありの若者が柳楽優弥で、「ヨシダ・シンイチ」と名乗ったが本名ではない。過去を何も語りたがらないシンイチは、偶然にも彼を拾った哲郎(小林薫)の亡き息子と同じ名前だった。シンイチは徐々に木工所の仕事を覚えていき、職場にもなじみ始めたかに見えたが……。
柳楽優弥の演技を久しぶりに見たのだが、彼は悩みながらこの役を演じているように見えた。それは脚本のせいかもしれない。主人公シンイチはその内面を見せないために、何を考えているのかよくわからない。いやそうではなく、何を考えているのかはわかるのだが、その感情の表出のタイミングがわたしには理解できない。なんでここで切れる? なんでここで泣く? なんでここで呆然としている? みたいな感じで、いちいち演出が気になってしまう。
そしてそのわかりにくさは最後まで続き、なんといってもラストシーンが一番わからない。ここで終わるのかあ、と愕然としてしまった。
自分が犯した罪から逃れられず、自責の念を持ち続けるシンイチと、彼を息子の代わりに溺愛するようになっていく哲郎とが共依存関係を構築するのは時間の問題だった。しかしその依存と期待と圧迫を逃れようとしたシンイチの不器用さも目に余る。
悪人はほとんど誰も登場しないのになぜか誰も幸せではない。さてラストシーン、シンイチはどこに向かうのか?
ところで、木工所での家具製造の過程が多少とも映し出される本作は労働映画の一種ともいえる。ただし、そこにはあまり労働の楽しさや達成感が見えないのが残念。物語全体が暗すぎるからだろう。