吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ナイトクローラー

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 失業中でケチなコソ泥によって生活する中年男が、ふとしたきっかけで特ダネ映像を撮ったばかりにテレビ局への売り込みを覚えて、たちまち売れっ子パパラッチになっていく様を、ジェイク・ギレンホールが悪魔的なその顔でぞっとするほど見事に演じた怪作。非常に後味が悪いにもかかわらず、映画的には観客をつかんで離さない力を持っている。
 マスコミの過熱報道批判なんて今更というテーマだからそのストーリー自体は目新しさがないのだが、主人公ルイス・ブルームの良心のひとかけらもないその態度があまりにもすさまじくてついつい見入ってしまうのだ。しかしあの顔はほんとうに好かん。目ばかり大きくてぎょろっと相手を見つめる不気味さ。これだけよく最低最悪な男を演じたものだ。
 また、その最低男をそそる悪徳ディレクターが厚化粧の熟年女性。どこかで見た覚えがあるけれど誰だかわからないなぁと思っていたら、なんとレネ・ルッソだった! こんなにおば(あ)さん化していたのか。そのうえ、悪魔男のルイス・ブルームに口説かれるんだから、これまた「この映画の脚本を書いたのは誰だ、すごいぞ!」とうなってしまった。その脚本を書いたのは監督でもあるダン・ギルロイで、さらに驚いたことにレネ・ルッソの夫であった。
 この映画をなんのためらいもなく批判できる人間はそうそうはいないだろう。覗き趣味やスキャンダル、大事故・大事件への好奇心を完全に否定できるほどの聖人はそんなに多くないと思うからだ。
 夜の街を疾走する車のスピード感もなかなかに小気味よく、アクション、脚本、演出、ともに出来の良い作品である。(Amazonプライムビデオ)