ちょっと期待値が高すぎた。
衝撃の問題作との触れ込みが強すぎたのだ。確かにかなりえぐい話ではあるが、衝撃というよりは、ヒロインの不可解な行動が最後までわたしには理解不能で、こんな女っているのかなぁとキツネにつままれたような気分だった。いや、何よりも衝撃だったのは彼女の父親の方だ。なんなのですかね、この殺人鬼の父は。
そして一番不可解だったのは、ヒロインをめぐる人間たちの心理。要するにこの映画は、なにか一本筋の通った理屈で人が動くわけではないことを描いているわけで、その理解できなさこそが真骨頂なのだろう。登場人物は全員どこかタガが外れており、もちろんヒロインの存在は圧倒的だ。いきなりレイプのシーンから始まる映画だが、レイプされたヒロインは悠然と立ち上がって部屋を片付け、何事もなかったかのようにふるまう。しかも友人たちの夕食の席でそのことを平然と話題に乗せる。化け物のように描かれる彼女は「悪女」なのか、何なのか。普通によくわかる悪女でもない。かといってもちろん善人ではない。この主人公ミシェルの理解不能さに輪をかけてすごいのがイザベル・ユペールその人だ。1953年生まれ、もう64歳になるというのに、裸で勝負できる女優。いつまでも美しく色気が漂うとは、さすがに大女優だ。これは彼女にしか演じられない役だろう。
そして、バーホーベン監督も昔からエロが大好きで、この人も衰えません。もう80歳近いのにこんな神経を使う作品を撮ってしまうなんてね。巻頭のレイプシーンでの猫の使い方のうまさには舌を巻く。猫って番犬にはならないんだよね。犬なら男に襲われているミシェルを助けてくれたかもしれないのに、猫はじっと見ているだけ。わたしは思わず、「主人を助けんかい、この役立たず猫!」と心の中で叫んでおりました。
ところで、この作品には神の存在が大きな影を落としている。いや、神の不在と言うべきか。隣人夫婦が敬虔なクリスチャンで、ミシェルの父親も熱心なカトリックだった。しかしそんな人々こそが実は病んでいるという大いなる皮肉をバーホーベンはほくそ笑みながら皮肉たっぷり描いている。ある意味恐るべきコメディというべきかも。
ELLE
131分、フランス、2016
監督:ポール・ヴァーホーヴェン、原作:フィリップ・ディジャン、脚本:デヴィッド・バーク、音楽:アン・ダッドリー
出演:イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリング、ヴィルジニー・エフィラ